〜第4章〜 黒の男


[02]朝6時44分


「多分そうなんだろうと、思うけど……」

《……どうしましたか?》

あの男の笑顔が、はっきりと目の前に浮かんだ。

「いや、あの人ではないんじゃないかなあ? 悪い人には見えなかったし、清奈もあれだけ気を許していた訳だし」

《そうですか……。しかし、このイクジスという者は、セイナにとって重大な何かなことは間違いないでしょう。セイナに直接聞きたいですが、話してくれるかどうかが問題ですね》

「うん、それなんだよな」

『もう少し、考えさせて』

そのセリフを聞いてから、長い時間がたった。
まだ清奈は、はっきりとその答えを示していないし、僕も進んで清奈に聞こうとも思わない。

そして、もう一つ。

これは僕から提案した訳で、当然約束は守らなければならないのだが、僕自身、無茶なことを言ったなあと痛感している。
6月19日、僕は清奈と戦わなければならない。

1ヶ月の時間をくれ、そして1ヶ月後に僕と勝負。勝ったら僕のことを仲間と認めてもらう、というのを清奈に宣言した。その後鼻で笑われたのだが。

しかし、現実はとても厳しい。何しろ清奈はネブラとの戦いはベテランだ。
豊富な経験と卓越した技術、そして冷静な思考を持つ。
清奈が培ってきた経験、恐らくは10年ぐらいの時間がある。その経験の埋め合わせを1ヶ月で行わなければならない。どんな圧縮ソフトでも無理があるよなあ。

しかし

お荷物とか、戦力外とか言われてずっと黙っている僕ではない。勝てやしなくても、清奈を見返してやるぐらいの進歩を遂げないと駄目だ。

その前に、絵夢を起こして登校準備をしなきゃいけない。

さてと……。





本日の勝負
3分28秒で、絵夢の勝利。絵夢からの不意をつかれた顔面キックを貰った僕は派手にコケた。パルスが笑い声を堪えている様子も分かる。絵夢……寝ているとはいえ、兄の顔を蹴り飛ばすとは何事か。

今日は絵夢、遅刻確定だな……。

しょうがないので、さっさと自分の朝ごはんを作って食べて、絵夢の朝ごはんを机の上に並べる。もう絵夢も新しい学校に慣れたらしく、一人でも登校できるだろう。


さて、電車に乗って五月原まで向かっている途中なわけだが、ここで再び、今後どうするかを考えることにした。
まずは昼休み。イクジスの事もあり、清奈のことが気にかかるが……それは6月19日の決闘の日でいいだろう。下手に刺激して何かが変わってしまうのはまずい。
放課後は、やることが決まってる。
僕は、清奈との来るべき戦いに備えて遠足の次の日から毎日、いわゆる【修行】をしている。パルスとハレンの立ち会いのもと、僕の武器(ライボルトと言うらしい)の扱いや立ち回りを指南して貰っている。
やっても無駄な気はするが、何もしないよりはましだろうと思い、僕からパルスに願いでたのだ。

【五月原〜五月原〜】

さてと、降りますか。




有山での一件から、一つだけ変化したことがある。それは、毎朝誰よりも早く教室にいる清奈が、最近姿を表さなくなったことだ。
いつも1時間目が始まる5分前のチャイムと共に教室に入ってくる。
よって毎朝僕は教室に1番乗りで来ている。
そして清奈の代わりに、僕と2人きりで過ごすことになった人が……。

今入ってきた。

スススと歩いて、椅子を出して座り、なにやら怪しいもの、例えばランタンや奇妙な文字の書かれた古本を開け、5円玉を吊した糸をその本の上に垂らす。

彼女の名は足立胡都乃(ことの)

見るからに怪しいオーラをかもしだし、とにかく謎、謎、謎の人。個人的に足立さんの事が知りたいのだが……知ってはならない気もする。
毎日かけてくるメガネも違っているが、故意なのかは分からない。ただメガネをかけていない日は無い。

不思議ちゃん
っていう属性?

また変な思考回路が働きだしたので自重する。


「……」

下を向き、じーっと文字を見つめている。僕にはアラビア文字でもフェニキア文字でも線文字Bでも、別に何だってかまいやしないが、時折足立さんは物凄い事を言う。
前は……

「2012年に……世界人口の半数を失うワールドウォー3が勃発する。当たる……当たる……絶対当たる……」

物騒だな。
でもそれは、2012年までネブラによる世界滅亡は起きないってことか?
あ……
ちょっと待てよ。


「ねえ足立さん」

僕は足立さんにどうしても聞きたいことが2つできた。それに答えて貰うため、僕は初めて足立さんと喋ることになった。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「……何で……しょう?」

急に話しかけられたからか、少し驚いた表情を浮かべる。

「足立さんは、未来が見えるんだよね?」

「ええ……」

「過去も?」

「容易いことです……」



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