〜第3章〜 清奈


[05]2007年5月19日 朝9時18分


と…ゆーわけで、遠足当日。

本日は5月19日土曜日
空は…五月晴れ!風も心地よく、雲も少しだけだ。本当に清々しい朝だ。今日はとっても素晴らしい一日になる……



わけねえな。

その理由は、とても単純明快。

あのバスの座席を決めたあの日。

「いずみん、番号は〜?」
「えっとね……7!」

「じゃあ、あやは?」

「4番4番!」




そして……。

このクラスの男子が【気になるあの子】の番号を聞く。ある意味緊張の一瞬だ。

「さくらは何番?」

「え〜っと……15番です。」

え……??

僕の隣だ!


うおおおおおおおおおっ!うおおおおおおおおおっ!うおおおおおおおおおっ!
女・神・降・臨!

天にも昇る気持ちだった。この時は…最高だった。


なかなかもう片方の隣が埋まらない。

そのまましばらく時間が流れていった。

そして…。

「長峰さんは何番なの?」



「14」



え?

瀬戸さんは、14番の所に「長峰さん」と書いた。そう、そここそ僕の右隣。

まあ、要するにだな。

僕はさくらちゃんと清奈に挟まれたわけで、言うなれば、左にエメラルド、右にダイヤモンドをつけてしまったわけだ。
そして、僕以外の男子が全員僕を見ている。

言っとくぞ。
信じてくれないかもしれないけどな、僕は何もしてないよ?くまのプーさんの言葉を借りると、何もしてないをしているんだよ?

今ならきっと中国の楚の武将、項羽の気持ちが分かる気がする。


「はあ…。」

溜め息をつく僕。

お陰さまで、ふっくんや一平になんとも言えない眼差しで見られることになったのだが。
素直に喜べないんだが。



というわけで、全員が揃ってぞろぞろとバスに乗るクラスメート達。
瀬戸さんがとてもしっかりしていたので、バスの予約からレクリエーションまでバッチリ計画を立てていたらしい。そういう所は尊敬します、瀬戸さん…。

「相沢〜!早く乗りなさいよ!」

いや、もう僕欠席でいいですよ。今日は多分、色々犠牲にしないと遠足は楽しめないと思うからさ。

「何ブツクサ言ってんのよ〜!早く乗るの!」

「はぁ…。」

僅か10分で本日2回目の溜め息。今日1日で何回溜め息が出るだろうか…。苦笑しながら、覚悟を決めながら、中へ乗り込んだ。

皆、僕をジロジロ見るな。ああそうですか。皆が僕の敵なわけですか。全員一斉に、しかもあからさまに、
宣戦布告なわけですか?

取り合えず僕がバスに乗り込んでから、一番後ろの座席に行くまでに幾多の視線(まさに下道)を感じ、精神的に強くマイナスベクトルが働いていた。

うらやましい、ねたましい、ひがみがましい。

皆の声が聞こえそうだった。

そんななか、

さくらちゃんは苦笑しながら僕を待っていた。

清奈は相変わらず無愛想で窓の外に目を泳がせていた。

二人とも…
今日は宜しくお願いしますね。

多分僕が襲われても、助けてくれるのはこの2人を筆頭とする女子達だけだろうな。

そんなわけで、瀬戸さんが大声で点呼をして全員の所在を確認し。

朝9時18分、バスは走り出した。予定の9時20分より2分早い出発だ。

この遠足を通して、



僕はチラッと右を見た。



ちょっとでも良いから仲良くなりたいな。少なくとも会話が成り立つぐらいは。

その視線に気づいているのか、いないのか。まあ恐らく前者だが、横顔から更に角度を曲げた。

後頭部を見せられても…。

そんなに嫌いか?僕のこと。




さて、バスが発車し…高速道路に乗る。バスの中はクラスメート達の話し声に溢れ、更にバスの放送から流行りの曲が流れたりして、
バスの中は賑やかだ。

するとさくらちゃんが、

「長峰さん。これ…どうぞ。」

さくらちゃんは金属製の箱から緑色の宝石(正確にはメロン味のドロップ)を取りだし、清奈に差し出した。

でた!さくらちゃんスマイル。少し微笑むその姿は、どんな男子もイチコロだ!

「ありがと…。」

それを手に取る清奈。

すると、

清奈はそれをマジマジと見つめる。

「これは…ふんふん…う〜ん……へえ〜…。」

何か言いながら、裏側をジッとみたり、手の中で転がしたり…

「くんくん。」

臭いをかぎはじめたぞ。

「あの…長峰さん?」

僕がたまらず言った。

それを見事に無視されて、清奈はまだジッと見つめている。

「長峰さん?」

「何よ、うるさいわね。」
「いや、食べれば?」

「え?」

清奈は、
何故かとても意外そうに驚いて
こう言った。

「これ…食べ物なわけ?」

またまた…清奈ったらボケちゃって、僕がツッコミ…じゃないだろう相沢悠。

清奈は性格的に、こんな何気無い会話でいきなりボケるような人間ではない。

つまりは…。

「長峰さん、ドロップって知ってる?」

「…なにそれ。バックドロップなら知ってるけど?」

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