〜第3章〜 清奈


[03]昼12時30分


午前中の授業が終了し、昼休みに入った。

ある人はクラブの昼練に行き、またある人は食堂へと向かい、またある人は他のクラスに行った。

そんなわけで教室にいるのは僕を含め数名ほどしかいない。

僕はクラブに入っていない。目をつけていたクラブもあったが、僕としてはタイムトラベラーが部活そのものだ。

というわけで昼には特にすることは無く、静かな空間でゆっくりとライトノベルを読む、というのが僕の昼の行動だ。

昼休みが始まりしばらく時間がたったとき、

《ユウ、通信です。》

パルスの声が聞こえた。

「ん…誰から?」

《ステラから信号が届いたので、ハレンからでしょう。以前集まった旧校舎一階のあの場所に来て欲しいとのことです。》

「………分かった。今行く。」

僕はしおりを挟み、鞄の中にしまいこんだ。

そして、教室を出て旧校舎へと向かった。








というわけで旧校舎についたわけだが…。

どうしたんだろうか?
新手のネブラが現れたのか?

「相沢くん。こっちです。」

ハレンが美術教室の、滑りの悪いドアの音をたてて、中から出てきた。







「どうしたんだハレン?」
「はい。少し相沢くんに話をしたいことがあって…。」

「清奈は来ていないのか。」

「先輩は呼んでないです。相沢くんだけと話をしたくて…。」

僕だけと話をしたくて?
この展開は少し期待してもいいのか?
しかし、どうも雰囲気としては、コクる感じじゃなさそうだ。

「先輩の過去が…少し分かったのかもしれないんです。」

清奈の過去?

そうだ。
以前のグレームドゥーブルで、一瞬だけ見せた、ネブラへの強い…恨みととってもおかしくないあの言葉……。




……そんなわけないでしょ…フェルミ。

私は…奴らを完膚無きまでに叩きのめすから、そういう態度をとっているの。


前にも思ったが、
清奈にとってネブラとの戦いは、少なくとも押しつけられたものではない。

復讐……か?

きっと

この戦いに関する意志は、強い。

そして
その過去を語ろうとしない。


人間なら誰しも知られたくない秘密というものがある。だから清奈の過去を詮索してはいけないと、ずっと考えていた。


「…分かったって、どういうことだ?」

しかし、気になった。
どうしても知りたいと思っていた。
清奈のことを知るまたとないチャンスだと思ったからだ。
悪行かもしれないが、それでもかまわない。清奈には知らないふりをしていればそれでいいだろう。

「わたし……夢を見たんです。夢のはずなのに、しっかりわたしの記憶に残っているんです。」

そしてハレンは、その夢について言い始めた。





「夢の中に、4人…タイムトラベラーが出てきました。そのうちの3人は、私の知らない人です。でも残りの1人は…まだ小学生ぐらいの先輩でした。」

野球部の大声が遠くから聞こえるが、今の僕はその声も気にならなかった。

「先輩以外の人は3人とも男の人で、大人でした。そして4人が協力してネブラを倒していました。」

そんな幼い時から清奈はネブラと戦っていたのか…。

「とても素晴らしいチームワークで、お互いが信頼しあっていて、最高のタイムトラベラーだと思いました。でも…。」

「…………でも?」

「いきなり、わたしの目の前が暗くなったんです。」

「暗く……なった?」

「それがとても嫌なものだってことは、すぐに分かりました。そして、その嫌なものは…男の人3人のうちの1人から、はっきりと出てきていることが、感じられました。」

「それで…どうなったんだ!?」
「後は覚えていません…。ただ、わたしが分かったのは、先輩がまだ幼い時に一緒だったタイムトラベラーの人が、先輩に何かをしたんじゃないか…ってことだけです。」

………。

しかし、それでは清奈はタイムトラベラー同士で何かがあったってことになる。ネブラを強く憎む理由にならない。

例えば

清奈の仲間が、ネブラに殺されたのならどうだろう?ハレンの言い分じゃ、互いに最高のパートナーだったらしい。そんな仲間が殺されたら、清奈は復讐に燃えるだろう。
でも、ハレンの言う【嫌なもの】が、仲間の一人から出てきたらしい。

……裏切ったのか?

まだ今の段階では分からない…。

「わたしの夢での話ですから…信用ならないかもしれませんけど…。」




「ハレン。何しょんぼりしているんだよ。」

「え……?」

僕はハレンの肩に手をおいた。

「ハレンが、悩んでいる顔なんて見たくないよ。清奈にどんな過去があったかは分からないけど、清奈はくじけないで、ネブラと戦っているじゃないか。僕達は、清奈を一生懸命応援してあげればいいんじゃないかな?」


ハレンは少し照れながら、

「…そうですね。」

あの笑顔で答えてくれた。


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