〜第3章〜 清奈


[01]朝7時50分


ん…。
もう朝か。

にわとりのコケコッコーの鳴き声という訳じゃないが、鳥の鳴き声で目が覚めた。

見ると、ベランダに一羽の鳥がいた。僕は特に鳥の名前は知らないので、何の鳥なのかは知らないが、長く黄色いくちばしで、鳴き声はピヨピヨだった。

いつも起きる6時30分より5分ほど早い。そのまま起きることにした。

ベッドから出て立ち上がると、その鳥は驚いたのか急に羽ばたき飛んでいった。

今は5月…

桜のシーズンはもう終わり、近くの桜花通りも若草が繁る季節となった。

あのグレームドゥーブルの一件以来、何の異常や変化は無く、再び僕は当たり前の高校生活を楽しんでいた。

さてと……

いつも通り絵夢を起こして登校するかな…。


「おい…絵夢。起きろ…。」

と、言いかけて。

目の前に信じがたい光景が広がっていた。

いや、別にネブラが僕の家に不法侵入とか、扉を開けたら不思議な世界でしたとかじゃなくてだな。

なんと

絵夢が……起きている。

第1章を見れば分かると思いますが、絵夢はかなりのねぼすけだ。自分で一人で起きていたなんて…今日雪が降るんじゃないか?いや、通り越して槍が降ってくるな。おお怖ぇ。
「あ。お兄ちゃんおはよー。」

「あ……あぁ。おはよう。」

「どうしたの?そんな不思議そうな顔して。」

「…起きれたのか…?」

「へっへーん!絵夢はちゃーんと一人で起きれるんだよ?見直した?」


絵夢が早く起きる…。
恐らく何らかの理由があるはずだ。

とりあえず僕は台所で、みそ汁を作ろうと鍋を取り出した。





具を刻み、味噌を溶かそうとした時、

「やったあ〜〜〜!!」

絵夢の大声が聞こえた。


「どうした絵夢?」

僕は台所から顔を出す。
テレビの前でガッツポーズをしている絵夢。
テレビには天気予報がついていた。

「お兄ちゃん〜あのね、絵夢ね〜明日遠足があるんだよ〜。明日の天気が気になって眠れなくて眠れなくて…今日早く起きたんだ〜。」

なんだよ。そういうことか。

遠足は明日なのに、凄いはりきりようだな。ということは明日も勝手に起きているだろう。

「天気予報が、晴れって言ってたんだよ〜。てるてるぼうずつけててよかった〜〜。」

そういえばそんなものがあったような…。

とっても嬉しそうだ。

でもなあ絵夢。

一般的に朝の天気予報は【今日】の天気を伝えるんだよな…。
まあツッコまないでおこう。






いつも通りの時間に教室に到着した。

僕が教室に入るといるのは清奈だ。一番窓よりの列の丁度真ん中の席。

清奈は毎朝誰よりも早くに教室にいるようだ。まだ7時50分なのに着席しているのだから。朝練に励む生徒達は部室にいるので、校舎内は静まりかえっている。その無音に包まれた世界にひっそりと座っている清奈…。

特に用事があるわけでは無さそうで、いつも頬杖をついて、深緑の黒板を見つめている。
考え事をしているのだろうか。

そしてもうひとつ。

僕の席なのだが、どこぞの神様の導きか…清奈のすぐ右隣なのだ。

僕は清奈の隣で荷物を下ろし、

「おはよう、清奈。」
そう言う。
清奈はこちらに視線を向けて。

「おはよう。」

それだけで十分と思ったのか、そのまま視線を元に戻した。

高校生になって一ヶ月たつが、清奈とは未だこの程度の会話しかしていない。グレームドゥーブルで顔見知り程度にはなったものの、あまり会話が多いわけではない。

二人きりになれるだけでも万々歳か。清奈は、僕みたいな凡人には決して届かない高嶺の花だ。

なんというか、なんなのだろう。

これは僕の願望なのか?
もう少しお互いの事を知りあいたい気がする。

仮にもタイムトラベラーという仲間うちだし、もう少し親睦を深めてもよさそうな気もするのだが…。清奈のガードは固い。


とにかく…何か話をしなければ始まらない。

……そうだ。

「なあ…清奈。」

思いきって僕から話を切り出した。静寂という重い空気を和らげる為に。

再びゆっくりと視線を向ける清奈。

「あれから…ネブラは出てきていないのか?」

話が出来るのはこの話題しか無さそうだ。



「そうみたいね。奴らの動きは慎重になってる。あれから大きな動きは無い。」

「そうか……。」

っと。ここで終わるわけにはいかない。他に話をすることと言えば――

もう一つあった。



「グレームドゥーブルの時の事なんだけどさ、小さな女の子がタイムトラベラーって…言ってたんだけど……もしかして正体がバレたんじゃ…。」

「その子…紺色のオーバーオールだった?」

「え?え〜…と。」

記憶を呼び起こす。

「……あってる。確かにそんな服だった。」

「じゃあ問題無いわ。その子もネブラだから。」

「ええっ!そうなのか?」

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