〜第2章〜 扉


[08]昼1時30分


「いい機会ね、悠。さっそく仕事らしいわ。」

「仕事って、ネブラが現れたのか?」

「そういうことよ。」


「そこにいる男は新米か?」

またあの男の声だ。

「ええ、こいつと一緒に行っても危険はない?」

「低級クラスだ。よほどの誤算が無い限りは問題なかろう。」

清奈が会話しているということは…。

「清奈。その声はタイムトーキーか?」

「そう。私のタイムトーキー…。」

「名はフェルミだ。少年、名は?」

やっぱりこの声はそうだったか。


「相沢悠だ。」

「承知した。ではユウ、さっそくセイナと時を渡ってもらおうか。」

いよいよか…。

「フェルミ、場所は?」

清奈が言った。
彼女にとってはこの仕事もいつもの日常なのだろう。

「グレームドゥーブルだ。」
それを普通に答えるフェルミ。


「それって…昨日火事があったっていう…高層マンションのあれですか?」

ハレンが言った。

「え…じゃあその火事はネブラの仕業なのか?」

「まあ恐らく、ネブラが過去に行って放火したんでしょうね。今回はまだ騒ぎとしては小さい方だし、今すぐ行っても大丈夫でしょうし、早速現場に向かいましょう。」







こういうわけで、僕たちはグレームドゥーブルへと向かった。

既に鎮火したようだ。マンションの真ん中程に穴が空き、黒く焦げている。

近寄ろうとするが…

【立入禁止 KEEP OUT】
と書かれた黄色いテープが張り巡らされていて、
鑑識や警察官が中にいた。
数台のパトカーや消防車が止まっていて、野次馬の代わりにマスコミがうろうろしている。

とてもじゃないが、入れなさそうだ。


「どうするんだよ?これじゃ中に入れないぞ?」

「馬鹿ね。まだここでは時間転移はしないわよ。」

「あ…そうなのか。」

清奈はハレンの方を向いた。

「ハレン。歪曲現象の検知とサーチングを開始して。」

「了解しました、先輩。」

するとハレンは懐から、灰色の鉄でできたサイコロのような物を取り出した。
立方体の面に、一つだけ赤いボタンがついている。

ハレンがそれを押すと、

立方体が切り開かれ、複雑に変形し、たちまち…

1台の立派なノートパソコンになった。色は水色だ。


「うわ…すげえ。」


ハレンは赤ぶちメガネのズレを少し直して、キーボードに文字を入れた。

見たことの無い文字列を慣れた手つきで打ち込んでいく。



次に僕は清奈に訪ねた。

「清奈、歪曲現象っていうの、まだよく分からないんだが…。」


「時間の矛盾よ。」

答えはそれだけだった。

「あの、もうちょっと具体的には…?」

清奈はこっちを向いた。

「歪曲現象は、別名タイムパラドックス(時空逆接的流動)とも呼ばれるわ。時の流れは宇宙が生まれる前から全て決まっていたということはもう知ってるわよね?」

「ああ。」

「歪曲現象は、あらかじめ定められていた時の流れに反し、時空が乱れている状態のことよ。例えば今回の場合は…。」

清奈はビルを見上げた。

「本来このビルに火事が起こることは定まっていなかった。」

「じゃあなんで火事が…。」

「ネブラの仕業に決まっているでしょう?奴らは私達タイムトラベラーのいない時間を狙って悪行をはたらく。今から3年前に行ってグレームドゥーブルを放火したら、当然【今】のグレームドゥーブルも火事になってしまう。言うなれば…時の流れが書きかえられたの。書きかえられた時の流れを修正すれば全て元に戻るってわけ。」

「う……う〜ん……。」
なんとなく、分かったような分からないような。



「分からないんなら、誰でも分かるように言ってあげる。要するに私達の使命は、今以外の時間でグレームドゥーブルを放火したネブラがいるから、その時間に時を渡ってそれを倒す。やることはそれだけよ。」


「清奈……もうひとついいか?」

「まだ釈然としないの?」

「いや、だいたい分かった。ところでさ、ネブラは宇宙が生まれる前から既に現れるって定まっていたのか?」

「定まってないわ。奴らは予期せずして生まれたの。時間って案外いいかげんでね。決まっていた通りに流れないこともあるわ。そこから奴らは生まれるの。」

「時が流れる限りネブラは生まれ続けるんだな。」

「そうね。かといって野放しには出来ないことぐらい、お前は分かっているわよね?」

無論だ。

「サーチング完了しました。対象時間は2000年3月9日午後8時45分です!」

ハレンはパソコンから手を離した。

「ありがとう、ハレン。それじゃ…早速始めるわよ。」

「え、今言った時間に?」僕が言うやいなや、

清奈とハレンが走りだした。

「ちょっと待てってーの!」
走って2人を追い掛けていった。





グレームドゥーブルが
斜めに傾いて見えた……。



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