〜第2章〜 扉


[07]昼1時12分


「まずは、今この刻からお前は只の人間ではなくなったことを自覚しなさい。」





「覚悟はしたさ。」

返す言葉がそれだけしか思い浮かばなかった。
長峰清奈…ここまで威圧的な奴だったのか?

「先輩〜折角の仲間なんですから、そんな挑発じみた口調しなくてもいいと思いま〜す。」

「ハレン、お前は優しいからかもしれないけど、こいつには強くなってもらわないと困るの。少なくとも、私達の足を引っ張らない程度にはね。」

む…足を引っ張るって何だよ。
でも…そういわれればそうか。
僕は、まだタイムトラベラーについて何も知らなさすぎる。どうやって時間転移するのか知らないし、ネブラは一体どんな奴なのかも知らない。


「……さて、話題を変えるわ。契約したのなら、お前はタイムトーキーを持っている筈ね。それを出しなさい。」

「え?」

「早くして。」

僕はつめおり制服の内ポケットからタイムトーキーを出す。

「お久しぶりですね、セイナ。」

「ええ、久しぶり。今から儀式を始めるから、こいつに説明してあげて。」


ハレンも、自分のタイムトーキーを出した。昨日見た通りの翡翆色だ。
「ユウ、これからタイムトラベラー同士が結束する為の儀式を行います。」

パルスが言った。今は姿が見えない。

「儀式…僕はどうしたらいい?」

「貴方は見ているだけで結構です。」

「分かった。それにしても何でまた?」

「疑問に思うことがおかしいわよ。お前はタイムトラベラーになったけど右も左も分からないんでしょう?一人前になるまで、私が面倒見るわ。」

長峰さんが急に会話に割り込んだ。

ハレンはクスクス笑う。

「何だ〜先輩ったら『余計なことに首を突っ込むなんて』とか言ってるわりには優しいじゃないですか〜。」

「ハレン、それは勘違いよ。私の統轄する地域で勝手な行動をしてもらうと困るの。」

微妙に語勢を強めていった。

「そうか…ありがとう…長峰さん。」

急に、長峰さんが此方を見た。
少しだけ目があう。

すると特に表情を変えることもなく目を背けた。

「私のことは…清奈で結構よ。」

それだけ言って、彼女は自分のタイムトーキーを取り出した。
深く綺麗なエメラルドグリーンだ。


僕の茶色のタイムトーキー

ハレンの翡翆色のタイムトーキー。

そして…清奈の緑色のタイムトーキー。
それが一つに集められた。

「…始めるわ。」


清奈の右手が、3つのタイムトーキーを覆い被せるように出す。

「レス…セレムフレック…アラスタラルン…シュヴァイツェン…。」

清奈が何かの呪文を唱え始めた。
一瞬だけ、火花が弾けるような音がした後、タイムトーキーが小刻みに震えだす。

お互いに力が呼応しているかのようだ。


「レスト……バックタイム……ワーズ…。」


視界が狭くなっていく。
今見えるのは3つのタイムトーキーだけ。
それ以外は純白の光でまるで見えるものではない。

今この刻に存在するのは、時間の輪廻。

生であれ、死であれ、
ここだけは時間が止まっていた。

更に光が増し…

「キャスティニーム…トライデント…ゴッドウェルベーム……!」

風が僕の周りを何周も回っている感覚が漂う。

近くにいるはずのハレンや清奈も、今は見当たらない。

「レスト…レスト…レスト………!!」

今度は……

背中から落下していく…

ような

なんだか…眠い…

寝て……いいのか…。

目を閉ざすと闇なはずが、
意識が離れていけばいくほど、

目を閉ざせば閉ざすほど、
光が僕を覆っていった…。





「相沢くん……相沢くん……!起きて……!」

ん……

「儀式は終わったわ。眠気が誘発されることを言い忘れてた。早く起きなさい、悠。」

え……あ……う……
体がうご……

く。
よし。

目を開けることは容易だった。

二人の顔が視界に飛込む。

「ごめん……なんでか分からないけど……寝てた。」

「慣れてないからですよ。乗り物酔いをする人は、酔わないように眠ってしまうことと同じことですから。」

「そっか…よい……しょっと。」

横になっていた体を起こす。


「これで相沢くんは、わたしと先輩と通信できるようになりましたよ?」

「通信って…。」

「ユウが私と、つまりタイムトーキーの声が聞こえることと同じことです。ハレンとセイナに対しても同様に声を伝えることができるようになったのです。タイムトーキーの相互伝達能力を介しての通信に過ぎませんが。」

パルスが付け加えた。

「今日はこれで解散ね。仕事が出来たらパルスを通じてお前にも伝えるから、しばらくタイムトーキーを肌身離さず持って置きなさい。」





「そうと行きたいのだが、仕事だ、セイナ。」

突然

渋い男の声が聞こえた。

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.