〜第2章〜 扉


[06]昼1時02分


「何?」

彼女から口を開いた。

「あ…ああ!ごめん…邪魔だったな……。」

とっさに僕は道を空けた。

彼女はしなやかな黒髪を後ろに流し、僕の真横を通っていった。

彼女の横顔が、
僕の瞳に写った。

彼女は特別な何かを持っている気がする。
外見は普通だが、内なる力を確かに持っている。彼女は、決して揺るぎない意志を持ち、その雰囲気はまるで薔薇でありながら、水蓮のような清らかさがあるというのか。
だからこそ、僕は彼女を清奈という名が相応しく思えた。






「おっと、忘れてた。」

当初の目的を思いだし、僕は隣の4組へと向かった。
まだ4組はホームルームが終わっていなかった。ドアの窓越しから、あの赤ぶちメガネの少女を見つける。ちょうど教室の中央にハレンがいた。

4組の担任は、大泉先生のようなおちゃらけた印象とは対照的に、厳格そうだ。年は30代から40代の男の先生だ。

「日直、礼を。」







ホームルームが終わったのを見計らって、僕は4組に入っていった。



「ハレン、ちょっといいか?」

「ああ、相沢くん。どうかしたんですか?」

「ちょっと話がしたい。できれば人気の無いところで。」
「……え。」








ん?
今何て言ったっけ?

話がしたい。人気の無いところで……。

おあっ!!?

「あ〜あれだよ?やましいことじゃないんだよ?ただ、昨日のネックレスのことなんだけど…。」

するとハレンは目を瞑って安堵の溜め息をついた。

「びっくりしますよ相沢くんったら〜。まだわたし達は2回しか会ってないんですよ?そんなんじゃ警戒されるに決まってるじゃないですかぁ。」

面目ない。
ハレンも事情を理解したらしく、僕とハレンは、旧校舎E棟に向かう。
人が殆んど通らない所だ。途中に長い渡り廊下があり、体育館に行くときもそこを通るのだが、体育館は途中で右に曲がれば着く。

廊下を渡りきるとE棟。

授業で使われることは殆んどなく、僅かな数のクラブが部室として使う程度だ。

なかなか広いE棟だが、壁が少し汚れていたり、あちこちにヒビが入っている。そして人は全くいない。


僕とハレンは1階の旧美術教室に向かった。

もう使われていないらしく木材や画材、すでに卒業した人の彫刻や絵画がひしめきあっている。

「…ここなら大丈夫でしょう。」

「よし、じゃあハレン。昨日のことなんだけど…。」
僕はさっそく話を切り出した。

「…あのネックレス…タイムトーキーっていうらしいね。そして君は、2008年の世界の破滅という歴史を変えるために、124年前から時を渡ってきた。」

ハレンはそれほど驚いたそぶりは無かった。

「……やっぱり、バレちゃいましたか。」

ハレンがニコッと笑った。

「ええ、その通りです。そこまで把握したということは、契約したんですか?」

「うん。パルスとね。」

「そうですか〜。茶色のタイムトーキーっていうことは、恐らくパルスだろうなって思ってました。相沢くん…凄いですよ!」

急にあの晴れやかな笑顔で言った。

「え、何が凄いんだ?」

「パルスはタイムトーキーの中では最上級クラスの妖精なんですよ。そんなパルスの力を相沢くんは手にしたんです。今の相沢くんは並のタイムトラベラーより遥かに上の力を得ていますよ〜きっと。

はあ〜うらやましいなあ〜〜。」

パルスってそんなに凄いやつだったんだ…。






「そう。お前は自分で使いこなせない程の力を手にしたのよ。」

「っ!」

僕はすぐさま振り返る。
今の声は…。


「何も知らないお前が、契約された。面倒ね…だんだん予定が狂っているわ。」
長峰……清奈。
……聞かれた、いやそうではなくて。

まさか彼女も…。

「そんなことないですよ、人手は多ければ多いほど、いいに決まっているじゃないですか。」

「ハレン、もしかして長峰…さんも?」

「はい、私の先輩にあたりますね。タイムトラベラーでもかなりの実力者ですよ。」

「申し遅れたわね、相沢悠。私は長峰清奈。この付近一帯を統轄しているタイムトラベラー…。

お前はタイムトーキーを拾い、契約し、タイムトラベラーになったわけね…。余計なことに首を突っ込むなんて、お前の気がしれない。」

「いつから…僕がタイムトラベラーだと気づいたんだよ?」

「お前が契約した瞬間からよ。私はずっとパルスの位置を探していたけど、迂濶にもお前の方が先に見つけ、余計な事をしでかしてくれたわ。あのまま放置すれば良かったのに…馬鹿ね、お前は。」

そうか、昨日の朝に姫咲駅で長峰さんを見かけたのもパルスを探すためだったわけか。

「ま…契約したのなら、それなりの覚悟は出来ているだろうし、タイムトラベラーの宿命をまっとうして貰うわ。」


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