〜第2章〜 扉


[05]昼12時24分


黒鉄の城が僕の目の前にあった。

空は厚い雲に覆われ、灰色空が遥か先まで広がり、くろがねの光沢が不気味に光り、無機質な光景が目に焼きついて残る。

ここは2008年なのか…?


すると、


城門の方からか、鐘の鳴る音が聞こえてきた。耳障りな音だ。

その音は…

地球の哭き声のように聞こえる。

僕の意識はゆっくりとその城の中へと落ち込んでいく……。






大きな城門を通り抜け、錆びた銅の鐘を見つける。

そして、城の入口であろう巨大な扉は前方約10メートル先にある。

扉は茶色で頑丈そうだ。

その扉がゆっくりと開き、さらに中へと入っていく…

最初に見たものはガーゴイルの石像。

左右それぞれに置かれたそれは、中へ入れまいとする門番か。
目が赤く光り、その鋭い眼光は僕の心や躰を貫くような鋭さを合わせもつ。


「……こっちよ!」

誰の声だろうか。どこかで聞いたことのあるような声が響きわたる…思い…だせない……。

「…まさか、これが…。」

「……先輩……わたし…もう…だめ…みたいです。」

あの声は…
誰だった?
確か、ハから始まる変わった名前の女の子……。
「しっかりして!お前が死んだら……!」

「…分かってます。
こんなところまで来て諦めたくないですよ…。
でも…
…体が
…もう
……う
……ご
…か……。







「…ハレン!?ハレーーーーーン!!」

その少女は、こうして息を引き取ることが…宇宙が生まれるまえから決まっていたのなら、なんて時の流れは残酷なのだろう――










「ん……。」

朝6時30分
携帯が鳴る。
マナーモードを解除し忘れたせいで、バイブレーションが一定のリズムで震えている。

夢は、たとえ強烈な印象を抱くような内容でも、あまり覚えているようなものではない。

だから今朝の僕も、何の夢を見ていたかなんてことも覚えているはずもなく、真っ先に洗面所へと向かった。

顔を洗いベッドの向かい側にある勉強机の上を見ると、あのネックレスが昨晩から置いたままになっている。昨日のあれは、僕の見間違いなんかではないのだろう。


「パルス、起きてるか?」

《はい、おはようございます、ユウ。》

「おはよう、パルス。」

僕はタイムトーキーを首にかける。
「タイムトラベラーになったのはいいけど、これからどうするのさ?」

《まずは星影ハレンと接触しましょう。タイムトラベラー同士組んでおけば、いざというときに貴方も行動しやすい。》

「よし、分かった。」

《あと…タイムトラベラーであることは、他の人には内密にお願いします。無関係な人に知られると…。》

「時空が歪むんだな。それも分かってるよ。」

《もしネックレスをつけることが不自然なのでしたら、普段は身につけなくても構いません。ただし、必ず持ち歩くようにしてください。》

「ポケットの中でも大丈夫かな?」

《問題ありません。》

僕はタイムトーキーを、つめおり制服の内ポケットに入れた。

さて、これから絵夢を起こして、早く朝御飯の準備をしないとね。

絵夢を起こしにいこうとリビングに向かい、すぐ隣のふすまで隔てられた部屋が絵夢の部屋だ。ついでにテレビを付けておくか。

テレビの電源を入れ、絵夢の所に行く。



[昨夜未明、----県五月原市の高層マンション「グレームドゥーブル」にて火事があり----]

「おい、絵夢!」

「……………Zzz」

今日は洗濯バサミを顔一面にはさんでやろうか…。
[---死者は分かっているだけで3人、10人が重軽傷を負いました。警察と消防は、出火原因の特定を急いでいます…。]





今日は写真撮影やら、身体測定やらで、学校は午前中に終了する。途中何人かの先輩による、「サッカー部入らない?」というありがちな勧誘に何度か会ったが、頼りない絵夢を家で一人にするのは危険すぎるので断っていた。

それにしてもふっくんときたら……

「っしゃーーっ!!身長2センチ伸びたぜー!」

そうかい、それはおめでとう。今時の高校生はそんなことでも喜べるのか。若いなあふっくんは。僕には無理だよ。ちなみに僕は身長3センチ程伸びたんだが、まあ言わなくてもいいよな、この場合は。

あ。

笑われてるぞ、ふっくん。しかもさくらちゃんに。



大泉響子による気の抜けるホームルームが終了し、山のような連絡プリントを鞄に突っ込んだ。

その後、僕は真っ先にハレンのいる4組に向かう。

ドアを出ようと思った瞬間

「わ……っと。」

長峰清奈がドアから入って来ようとした。

思わずぶつかりそうになったが、何とか踏みとどまった。

「………。」

二人が向かい合う。

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