〜第2章〜 扉


[03]夜7時13分


「ネブラは今この時も活動しており、タイムトラベラーも日々、殲滅に尽力しています。おかげでこの世界崩壊の未来は何とか先延ばしできているのですが…延ばすというのにも限度があります。いずれ、この未来が現実となるでしょう…。」

「…この未来を知っているのは、タイムトーキーの君達と、タイムトラベラーの僅か26人の人間だけだっていうのか。」

「その通りです。これがタイムトラベラー以外の人間が知ってはならない事実。無関係な人が知ってしまうと、またもや時間に大きな歪みが生じるのが懸念されるでしょう。」

驚いた。
毎日同じことが繰り返され、明日なんか当たり前のように訪れると思っていた。僕の知らないところで、タイムトラベラーという人達が必死で戦って初めて、明日が生まれているのだな……。あのハレンも…。



ん?

待てよ。




「なあパルス。ハレンは124年後の人間なんだよな?」

「そうですが。」

「じゃあおかしいじゃないか。1年後にこの世界が訪れるということは、当然124年後の世界はこうなっているんじゃないのか?人間は死に絶えてないのか?」

我ながら冴えた頭だ。
「この世界は、人間は辛うじて生きています。しかし、99.9999%の人間は失われました。2007年時点で62億いるとされる人間ですが、生き残ったのは100人を越えるか否かの所です。星影ハレンは、その100人の子孫にあたるのでしょう。」

「……ということは、ハレンはこの世界の中で生きてきたんだ…。」

この極限状態の中、

タイムトラベラーになる前から、

あの笑顔の、

少女がーーー




「パルス、そんなトップシークレットの話を、まだタイムトラベラーじゃない僕に話してよかったのか?いや…言わせたのは僕か、悪い…。」

「いいえ。







貴方なら…なぜだか分かりませんが、







信じられる気がしたのです。」


何だよ、その胸がムズムズしそうなセリフは。


「貴方はタイムトラベラーの素質を持っています。」

「え?何で?」


「私の姿が見えているからですよ。素質がなければ、タイムトーキーは只のネックレスにしか見えません。今貴方は、私とこうして会話ができている。しかも素質があっても、普通は声しか聞こえないのが常です。
ところが貴方は、私の姿まで認知できている。それだけで貴方は天賦の才能を持っているのです。」

そう…なんだ。

普通に見えるけどな。

律儀で恥ずかしがり屋さんな妖精が、目の前にいるのがすぐに。

もう一度パルスの頭に人指し指をのせる。

「あの…そんなに触らないでいただけませんか。」


「……あ、嫌だった?」

「あの……体に触れられるのに慣れていないので…。」

しまった。
人形みたいな妖精だけど
彼女も年頃の女の子だ。
気安く体に触るなんて変態じゃないか!




「それでは、1年前に戻りましょう。」


一瞬体が浮いたと思ったら

あっという間に辺りが真っ白になり、元に戻った。

「…あの未来を変えることはできないのか。」

「未だに私達タイムトーキーや、タイムトラベラーも打開策は見つかっていません…。ネブラによる異変を処理していくことで、あの未来を何とか延ばしているだけです。回避しようと思えば、ネブラの根源を絶たなければならないでしょう。」


「ネブラの…根源…。その正体って…!」

「……残念ながら分かりません。」





それで二人の会話は止まってしまった。
「今度は僕が色々喋る番だな。パルス、ちょっといいかな?」

「はい…なんでしょうか。」

「まだ決めてないけど、仮にタイムトラベラーになったとしよう…。でも僕は戦えるような強い人間じゃないし、特別頭が良いわけじゃない。そんなんだから、君達の足手まといになるんじゃないか…?」

パルスは僅かに微笑んで
こう言った。

「恐れることはありません。何度でも言いますが、貴方は天賦の才能があるのです。そのような心配をしなくとも、貴方はタイムトラベラーの一員として活躍することができるでしょう。」

「……そうなのかなぁ?」






タイムトラベラー……

なりたくないわけじゃない。このままみすみす世界の崩壊を待つなんてのは嫌だ。そして僕はこれでも、他人が(特に女の子には)困っているのはほっとけない性格をしている。

そして僕がタイムトラベラーになれば、








ハレンも喜んでくれるだろうしな……。






あの明るい少女が、必死で自分の時代を変えるために戦っているんだ。

それを知ってしまった以上、見てみぬふりはダメだ。

僕は…








ネブラという奴らと、戦いたい。

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