〜第2章〜 扉


[17]2000年 3月9日 午後9時03分


私は奴の後ろに着地した。その剣に確かな手応えを感じた。

すると奴の顔…もとい仮面にヒビが入り、割れていく音を耳にする。

「う…うう…う…。」

奴は顔を押さえながらこちらを向く。しかしそのヒビ割れが止まることなどなく仮面が剥がれ落ちていく。

「…やって…くれますね……ヒュヒュヒュ…。」

いよいよ仮面は粉々になり奴の素顔が現れたが、両手で顔を隠している。

私はトドメにもう一撃、
踏み込んで首元に大きく一閃を入れた。


斬撃音を耳にし、私は勝利を確信した。

奴の首もとから黒い液体が流れ出て形を失っていき、やがて消えた。







「何も来なかったわよ、フェルミ。」

《む…私の気の迷いだったのか?》

「そうだったんじゃない?終わったことだし、早く2007年に帰りましょう。」

私が去ろうとした
その時だった。







「……まだ終わっていませんよ。」

私はすぐに先程奴のいたところを向く。

するど奴のいた空間に真っ黒の穴が空いているのが見えた。

「…かなり真面目に戦ったつもりですが、やはりあなた様にはこれを使わないとダメなようですね。」

姿は無いが奴はそう言った。
《まずい!セイナ…あの穴は…!!》

フェルミの声が聞こえた瞬間


「………な…!」

私の体がとても強い力によって中へと吸い込まれていく!
私はそれを足で踏みとどまって耐える。
奇妙な感覚だ。
これは吸い込まれるというレベルではない。
私の足が勝手にそこへと向かわせるかのようだ…。


「く…!あれは…いったい……!?」


その穴は、だんだん吸い込まれて穴に近づいているのか、穴がだんだん大きくなっているのかは分からない。


「う、うあああああっ!」






私の声が頭の中でこだまする。







《セイナ…目を覚ませセイナ!》

大衆の歓声が聞こえる。
クラッカーが鳴るような音や陽気な音楽が入り交る。

私が目を覚ますと、カラフルな色の巨大なテントの中にいることが分かった。

次に分かったのは私が鉄の檻に閉じ込められているということ。

周りを見渡すと数多の人間が私を取り囲むように座っている。その人間達に生気はなく、白眼をむいたような人間が騒いでいる。

ここは……

サーカスのオンステージのように見えた。

「ここは………!」

《…恐らくは不可視空間に類するものだろう。》
不可視空間は、その名の通り見ることができない空間だ。ただし一定条件下に基づいた時にのみ、私達はその存在を理解できる。この不可視空間は、本当は予めあったものだったが、力を注ぎこむことによって初めて見ることができるというものだ。あのネブラの奥の手は当にこれなのだろう。


すると前方から、


ステッキを持ったあのネブラが地面から顔を出し、体を出し、競り上がってきた。

「レディース エ〜〜ンド ジェントルメーーン!
皆様大変お待たせいたしました!これから行うこれこそ、皆様をサプライズの彼方へと誘う最高のトリックショー。本日のメインイベントで〜す。」

またも辺りは歓声に包まれる。

「あいつは一体何を…?」

「まだ分からない。だがこの空間の中心は奴だ。奴にとって全てが思い通りに動く世界…。まんまと私達は奴のチェスの駒になったということか…。」

「ここから奴を狙う。」

私は奴の頭上に、
「プレスト!」
雷を落とそうとした。





落ちない。
何も起きていない。

「無駄ですよ。」

あのネブラがこちらに来る。

「ここはわたくしの世界なんです。ここでは全てがわたくしのシナリオ通りに事が運ぶんです。
ですので、わたくしのシナリオに【雷が落ちる】と書いていない限りは無理です。いえ、【わたくしに傷を与える】ということも書いていないから不可能ですね〜。」


「……お前…最初からここに入れるつもりで。」

「はい〜。何せあなた様は非常に強い。ですからこうでもしないとわたくしに勝ち目がありませんからね〜〜。


そうですね…せっかくこのショーの特別席に座っていただいたのですから、たっぷりと楽しませてさしあげましょう…。」







するとネブラは指を鳴らした。それと同時に
出演者が登場する出入口から、

2匹のライオンが現れた。

「サーカスに猛獣といえば、これですね〜。

それぇぇぇぇい!」



ネブラが口から、細長い火を吐いた。

それが蛇のように空中を這いまわり、一つの巨大な円のようになる。


「さあ紳士淑女の皆様!私と…この猛獣達と…そして勇敢にも私の手伝いをしてくれる一人の少女が織りなす…エキゾチックでスペクタクルなショーを特とご覧にいれましょう!!」

再び観客が歓声をあげ始めた。
奇怪なサーカスが展開されていく。この状況の突破口は見当たらない。

恐れるな。

ならば風穴を空けるのみだ。

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