〜第2章〜 扉


[14]2000年 3月9日 午後8時50分


「わたしは上ってくるネブラを迎え撃ちます。相沢くんはここから地上にいるネブラを宜しくお願いします。」

ハレンが真剣な表情で僕に言う。

「一人で大丈夫なのか?」

「問題ありません。もし何かあったらパルスを通じてわたしに連絡してください。」


ハレンは更に下りていった。

「よし…。」

《ユウ、銃をレーザータイプに切り換えます。一掃するならその方がいいでしょう。》

パルスの声だ。

「そんなことができるのか。頼む。」

すると白銀の銃がみるみるうちに変形し、銃口部分が太くなり、銃そのもののサイズが大きくなった。不思議なことに、重量は変形前と全く変わりは無い。

「これなら!」

僕は銃口を地面に向ける。下にいる無数のネブラで黒く染まった大地に、
今、光が降り注ぐ…!


ネブラのけたたましい程の悲鳴が響き渡る。あのネブラ達に逃げ道は無く、僕のレーザー光線が全てのネブラを倒すのに時間は殆んどかからなかった。

「相沢くんナイスファイトです!」

ハレンの声が聞こえる。

「……ははははは。僕って結構凄いのかも。」
しかし、調子に乗ると足下をすくわれる。

《ユウ、後ろ!!》

しまった!後ろにネブラが一匹いた。それは僕に飛びかかる。そして僕のすぐ背中には断崖絶壁。押し倒されると地面の遥か上から落下してしまう――

ネブラの鋭い牙が不気味に光る。
まずい。もう避けられない!体当たりで落とされる――――!!


僕は一瞬死を悟ったが、
来るはずの体当たりの衝撃が来ない。
恐怖で瞑っていた目を恐る恐る開けると。


ネブラの心臓辺りから、
何が細長い物が伸びていた。
ネブラが苦悶の声を上げる。
よく見ると

その細長い物は剣だった。


それが引き抜かれ、黒い液体がドクドクと漏れでて次第に形を失い、よく分からない黒い塊になった後、消え失せた。

そしてネブラの背後から姿を現したのは清奈だった。清奈は左利きなのか、左手に剣を持っていた。先程は白い煙を上げていたそれだが、今は赤色の電気を帯びていて、小さく火花が弾ける音がする。マントと黒髪が風に乗ってなびいている。

「まず一つ言わせてもらうけど、お前はこれっぽっちも凄く無いわよ。」

あのセリフを聞かれていたらしい。
「私が来なかったらどうするつもりだったの?」

う…それは。



「あまり相沢くんを責めないで下さいよ先輩。初めて戦うのに相沢くんはしっかりとやってくれてますよ。」

ハレンが戻ってきた。

清奈は僕の顔を見て、軽くため息をついた後、

「上の方のネブラもあと数体程よ。後はネブラの発生源を消せばいいだけ。二人ともケガは無さそうね。」

「大丈夫です。」

僕もない。

すると、


再びネブラが現れた。
2体が清奈の背後に現れる。

醜い顔だ。
見えるのは目が血走った獣と、さらさら流れる髪の毛。

清奈は微動だにしない。

ネブラも飛びかかろうとするが、それが出来ない。

なぜなら、隙が全く無いからだ。
ネブラと清奈の距離は3メートル程にも関わらず、ネブラは動けない。あのネブラ達が何をしても結末は同じだろう。

ついに2体のネブラが同時に、清奈に牙をむく!


清奈はゆっくりと剣を構える。赤色の電流が大きな力を表し、その美しい容姿をもつ彼女の瞳が、ネブラをしっかりと捉える。


二体のネブラのうち一体は清奈の上から、もう一体は清奈の前から飛びかかる。もうすぐ清奈が食われてしまう…というところで


残撃音が聞こえた。


そして見ると清奈はいつのまにか高くジャンプしていた。そして空中で一回転。緩やかな軌道に沿って清奈の体が浮き、片足で着地する。

ネブラはというと、体を縦に一刀両断され、またも体が溶けるように形を失い消え去った。


そして三人は再び上に登り始めた。10階を越えてもまだ天井は高い。ひたすら登り続ける。


どれくらい登っただろうか。普通の人間ならとっくに息切れしているだろう。見るとかなりの高さになっている。この階段も鉄板やプレハブで作られ、とても丈夫とはいえない。上に行くにつれて錆びた鉄が軋むような音がして心臓が悪い。しかも15階ぐらいから手すりすら無くなり、強風が吹くため一歩間違えればまっ逆さまに落ちてしまう。とび職って命がけだな、本当に。

ようやく屋上まで数メートルというところで、


階段が途切れていた。丁度折り返す踊り場だけが残り更に上に続く階段は無かった。
上を見るが屋上には10メートル程届かない。屋上部分は黒い金網が床として張られていて、問題の貯水タンクらしきものも見える。
「先輩……この先はどうします?」

ハレンが上を向きながら言った。

「鉄骨に飛び移りましょう。」

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