〜第2章〜 扉


[13]2000年 3月9日 午後8時45分


時刻は午後8時45分…。

まだあちこちの鉄骨が剥き出しで、階段も建築作業用の鉄板で出来たものだ。
更に夜というせいもあり、辺りは暗く視界が悪い。

「まだネブラの気は感じられませんね…。」

ハレンの声が聞こえる。ようやく目が慣れてきたので、ハレンと清奈の顔が見える。

「奴ら…私達を屋上に誘いだすつもりかしら。」

更に階段を上っていく。何度も何度も階段を上っていく。かなりの階数を上っていったのに、息一つ乱していないのはタイムトラベラーになったからだろうか?もうすぐ10階に到達する。そして11階の階段を上ろうとしたところで、


急に清奈が足を止めた。
後ろから猛ダッシュで追い掛けていた僕がギリギリの所で踏みとどまった。

「先輩、今真上にネブラの気配が複数……。」

「ええ、恐らくは4体…。お前は感じる?悠。」

まだ…分からないが…

「真上に意識を集中させるの。お前でも容易に分かるわ。」




…………………。




分かった。
感覚としては吐き気に近い。そして重い頭痛。

「………これか。」

確かに気配は一つではなさそうだ。さすがは、矛盾からできたというだけある。
もやもやとしていて、気が滅いるような脱力感すら感じられる。


「下りてくる!」

ハレンが言うや否や、

金属と金属がぶつかりあうような音が響いた。その音が僕の頭痛に拍車をかける。
でもこの程度で参るわけにはいかない。音のした方に振り向くと、







例の ネブラ がいた。

全身が真っ黒だ。そして姿は狼のように見える。目だけは赤く不気味に輝き、まさに僕達に飛びかかろうとしていた。

そのネブラが吠える。

姿は狼のくせに鳴き声は蛇のように痛たましい。


「……ふん、ただのウルフ型のネブラか。人間の形ですらない…。」




「ユウ、銃を構えて。」
急にパルスの声が聞こえた。

銃口をネブラに向ける。

「……あの程度ならお前でも十分よ。」
清奈は僕の後ろに回った。

とはいっても、
正直怖い。

僕はガンシューティングゲームはよく遊ぶし得意だが、ゲームはゲームでしかない。

これはそんなものではない。戦いだ。

100円を入れたら死んでも復活するわけない。



ネブラが僕を睨む。
笑っているようにも見える。僕が怖がっていることを悟ったのかもしれない。

だめだ。手が震えて銃口が定まらない。
そのとき

再び清奈の手が
僕の銃を持つ手を覆った。



温かい手だ。そして柔らかく、優しさに溢れているようだ。その手が僕から恐怖を取り除き、自信を与えてくれた。
緊張がだんだんとやわらぎ、手の震えは…やがて止まった。

そしてネブラは飛びかかってくる。大きく、鋭く、黒い牙が僕と清奈を襲う――――!


「………今よ!!」

僕は清奈の声をはっきりと耳に残し、
その銃の引金を引いた…。





その弾道は
銃口から一直線に空間を切り裂き、
見事にネブラの胸の辺りに命中し、貫通した。

その銃弾が遺した後が大きく広がるようにネブラの姿が消えていく。ただ声にならない悲鳴だけを残して……。

そして目の前にネブラはいなくなった。
清奈の手が僕から離れる。

「や……やった…!」

「さすがはパルス、下級クラスとはいえ、一撃で仕留めるなんてね。」

おい、今のはパルスの手柄なのかよっ!

「まだネブラは残っています。弱いのが3体…いやもっと沢山の!」
ハレンが言った。
とたんに、

「や………やべえ!」

10体近くのネブラが近づいて来るのが感じられた。
それが上からのみならず、下からも上がってくるのだ!
そのネブラの集団に遭遇してしまうのに、時間は殆んどかからなかった。
さっきの狼のようなネブラが、上に下に現れる。
その数は4体どころか、ゆうに10体は越えていた。階段は一本道、完全に挟まれてしまった!

「私は上に行って根元を滅するわ。お前達は下を。」

「了解です。相沢くん行きますよ!」

ハレンは杖を出し、その先端を下にいるネブラに向ける!

「ドリフト!」

杖の先端から風が起こり、かまいたちが飛び出してネブラを切り裂いていく。
僕も負けていられない。
パルスの銃で僕も応戦する。

二人は下に行く。
次々と現れるネブラ達。
何匹倒してもきりがない。

「相沢くん!上です!」

とっさに僕は上を見上げると、

「危なっ!」

考える前に体が動いたのが幸いした。上からネブラが落ちてきたのだ。それをなんとかかわし、落ちてきた所を撃ち抜いた。

更に下へと進んで行くが、
「ハレン。地上が凄いことになってる。」

僕とハレンが地面を見下ろすと、

百体に相当するであろうネブラの大群がいつのまにか取り囲み、ぞろぞろと階段を上ってきているのだ。



[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.