〜第2章〜 扉


[11]2000年3月9日 午後8時35分


不可視空間は閉鎖的な部屋だったので、外の様子はまるで見えなかった。だから時間を渡った実感は持てなかったが、外に出るとすぐにそれが分かった。

それにしてもタイムトーキーという物を使いながら、携帯電話も使うなんて、凄く不思議だ。以外と身近な所が、非現実への入口があるのかもしれない。

入る前に昼だったのが、今は夜になっていた。
まだ樹々はつぼみを付けたままで、ほのかな梅の香りが漂う。

空には三日月が上がり、雲も無い空だった。
夜風が吹くが、春がもうすぐ訪れようとしているからか、肌寒くない。

「ハレン、悠、早速行動開始するわ。」

「分かりました。」

「ハレンは私のアシストをしなさい。今回は私一人で十分よ。」

「…僕は…?」
返る答えの想像は容易だったが、一応聞いてみた。

「ここに残りなさい。お前はタイムトラベラーだけど、まだ戦闘経験が無い。一般人と同じお前が来るのは邪魔になるだけよ。」

「でも……僕は…。」







戦いたい。
なんだか嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
背筋が凍るようだ。
僕の体の中のどこかで、不安が伴っていた。
そう、例えば…


《この二人が殺られる》


とか…。
「返す言葉は無いの?それじゃ…」
「ちょっと待ってください。」

急に、
パルスが口を開けた。

「ユウも、連れていって頂けないでしょうか。」

え…
パルス、いきなり何を…
しかし、僕にとっても好都合だ。僕が言ってもダメだろうが、パルスも言ってくれるなら…。

「私もパルスに賛成する。我々の戦いというものを見せたほうが今後の為にもなるだろう。」
フェルミも言った。

ステラは…口を閉ざしたままだ。

「お前はそう思うんだ?フェルミ。」

清奈は自分のタイムトーキーを持ちながら言った。

「ハレンはどう思う?」

「う〜ん…。」

ハレンは少し考えたそぶりを見せてから

「ちょっと不安ですけど、パルスもいるから…大丈夫だと思います。」


「分かったわ。こいつも連れていく。」

どうやら、僕も行くことで決まったらしい。

「ただし。」
清奈の目が合う。

「自分の身は自分で守りなさい。私やハレンが助けてくれるなんて甘い考えは通用しないからね。」

くっ……!
そんなこと言われると、少し怖くなるじゃないか。いざとなったら助けてくれるわけじゃないのかよ。
自分の身を守るってどうすれば…いい?
武器があれば…。







ん?
ちょっと待て。
清奈とハレンの武器は何だ?
学校から直接此処に来たから、二人は制服だ。もちろん僕もだ。
武器も防具も無いのに戦うのかよ?

「なあ、二人とも武器は無いのか?」

「武器ですか?タイムトーキーこそが武器ですよ。」ハレンが言った。

「え?」

「見ててくださいね。」

ハレンはステラを外し、

「バトルモード、移行開始。」

ハレンがそう言うと
ステラが光り始めて、光がハレンを包みこんだ。

その光がだんだんと薄れていくと


ハレンは別の服に着替えていた。

これは…魔法使いだろうか?

魔女のローブにトンガリ帽子。ただし、色は黒とか紺色とかではなく、薄水色だ。RPGゲームっぽく言えば青魔導士というのだろうか。左手には黄金の杖があり、あの赤ふちメガネが外されている。

「ハレン…君は魔法が使えるのか…!」

「あはは、わたしは使えないです。ステラの力を借りたんですよ。」

なるほど、そうか。
ということは清奈も…。

「バトルモード 移行開始。」

フェルミも光り始めた。清奈の体が光に包まれ、

現れた。




その姿は……。




…美しく見えた。
少し破けた紅色のマントを纏い、風で揺れている。その風で緩やかに長い黒髪が流れ、その姿は力に満ちていた。茶色の服に体が包まれている。その強い瞳は遥か先のグレームドゥーブルを見据えていた…。

そして左手には、白い煙が上がっている刀があった。



僕はこの時初めて、


女の子を、【かっこいい】と思えた気がした。







「今度は相沢くんの番ですよ。」

「え!僕もなの?」

「当然ですよ。相沢くんだって立派なタイムトラベラーですから。」

「じゃ……じゃあ…。



バトルモード…移行開始!!」



光が体を包む。
何だか全身が暖かい。
そして息を一回するか否かの短い時間の間に。

光が薄れて視界が元に戻っていく。


「うわ…!」


チビッ子向けのアニメでいう「変身」というやつが、僕の体に起こっていた。

僕の服は、高校生のノーマルでデフォルトな制服から見違える程に変わっていた。

白いシルク地のコートを身に纏っていた。その服の背広は、僕の踵にまで届くか届かないかの程だ。


右手には、プラチナでできた白銀の銃を持っていた。

「相沢くん…目が青いですよ。」

「え……?」



[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.