〜第1章〜 日常


[06]夜7時ちょうど


新聞を広げるおっちゃん。iPodを聴く大学生。とりとめのない話をする他高の女子高生。寝ているばあちゃん。とまあそれぞれ電車の中での過ごしかたは十人十色だが、
僕と絵夢の場合は、
ドアの側に立ち、絵夢から今日の出来事、もとい何をやらかしたかを聞きながら姫咲駅に着くのを待っていた。
まもなく時刻は7時に差し掛かろうとしている。

古い自転車がブレーキを書けるような嫌な音を立てて電車は姫咲駅についた。

その途端

「はっ!」

我に還ったかのような声を絵夢が出した。

「どうした?」
「アニメを見逃しちゃうーー! お兄ちゃんこれ持ってて!」
「おい! 絵夢!!」

そのまま自慢の足で走り去っていった、荷物だけを残して。
あいつ、家の鍵持ってたっけ?
僕はポケットを探る。
鍵は僕が持っていた。
軽く溜め息をつき、駅を出た。
長く緩やかな上り坂を登る。コンビニの角を左折したら家はもうすぐだ。
すると、
何か固い物を踏んだ。
見ると今朝落ちていたネックレスだった。
ガードレールに架けておいたのに、なんでまた地面に落ちているんだろうか。
持ち主はまだ現れていないらしい。
もう一度拾いあげてみる。そして同時に、
ハレンの事を思い出した。ハレンの持っていたのは、翡翆(ひすい)色の石だった。
これは黄土色だ。しかし、布で研けば美しい琥珀(こはく)色になりそうな輝きだ。
そしてハレンに、これが落ちていた事を言った。
反応は、なぜか黙ってしまった。

月の光がネックレスを照らす。
辺りには、
往来する車と、その車のヘッドライト。
その中にいる僕。
そして、僕の手の中にある謎めいたネックレス……
雲の無い星空を見上げた。上を向く。夜桜が綺麗に咲き誇るその時間。その瞬間。

夜が昼になったのか。
ネックレスから真っ白なまばゆい光が放たれる。
辺りの景色は全て真っ白に染まり、車のエンジン音や喧騒は全く聞こえない。
一瞬額に生暖かい空気が流れたかと思うと、目の前に「何か」が現れた。
それは僕の親指ほどしかない大きさの女性だった。
白い羽衣を纏い、僕よりも年上のように見え、その青い瞳からは、理知的な印象を受ける。
その少女は口を開けず、僕の心に直接言葉を伝える。その言葉は次のようなものだった。

「貴方は、私との契約が認められた。貴方は此を受理する者か?」



その頃、五月原高校に二人の生徒が残っていた。
下校時刻は既に過ぎており辺りに人影は見られない。
屋上――

「未だに動きはありませんね……」

誰かが、青いノートパソコンの画面に向かいながら言った。
その側にもう一人、長い黒髪の少女がいた。

「この辺りに間違いは無いのね?」
「ええ先輩。ここ数日に7件もの歪曲現象が起こっていますが、位置を把握するとこの高校を中心とした周辺地域に特定できます。だから、ここと断言してもいいと思います」
「引き続き調査を続けなさい。もし結果が陽性ならいつでも呼んで。私はしかるべきに備えて力を蓄えておく……」
「了解しました、先輩」
「ところで、パルスの所在はまだ分からないの?」
「分かったのは分かったんですが……。発見したのは一般人だったみたいです。言いすぎると正体がバレかねませんし……」
「名前は?」
「確か相沢悠……だったかな」
「分かった。明日私が上手くやる」
「契約しちゃってたらどうするんですか?」
「その時はその時。契約通り従ってもらうわ。引き続き調査頼んだわよ。ハレン……」
「了解です。先輩……」




第2章に続く…。

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