side story


[07]時を渡るセレナーデ(合同作品)@



2007年――

僕は絵夢に朝食を作っていた。
何気なくつけた朝のニュース。いつも見ているアナウンサーの顔を見る。

ニュースのテロップを見ると

「へ〜」

と適当に感心の声を上げて、そろそろ昨日の晩ごはんの残りである焼き飯を温めた。

テレビには【全世界注目、有山に現れたアトランティス?】の文字。

有山は港町だから、海に接している。漁師が大理石のような物体が浮遊しているのを発見し、中に放射性同位体が偶然残留していた。そのお陰で、どうやらそれはエジプト、メソポタミアよりも更に古い未知の文明のものではないか、と分析され、先日深海艇が潜入した。そこで、僅かに一部分だけ奇妙に深い地点があったらしく、僅かに都会のような陰がカメラが捉えたらしいのだ。
その映像が、何度も何度も映されている。


「古代文明ねぇ……」

「お兄ちゃん、はやくぅ〜ごはん〜」

「起きたか、絵夢」

時計を見ると、あまりもたもたできない。

「着替えどこ〜?」

「昨日畳んだでいれたからタンスにあるだろ?」

「無いもん……」

「……絵夢、そこは押し入れだろうが!」

「あ〜そ〜だっ、けぇ……ZZ……」

はぁ……。










「重大な話よ」

今は昼休み。

「何がさ」

絵夢がもたもたしたお陰で昨日の晩ごはん、今日の朝ごはんと続いた焼き飯を、昼も食べなければならなくなった僕は、アルミホイルに包んだスプーンを取り出し食べようとしたところを

「ちょっと来なさい、悠」

手を引っ張られ、強制的に教室から退去、そして渡り廊下を通り旧美術室に連れてかれているところだ。

そして、今僕の手を引っ張ってる少女は、

僕の日常を大きく変えた、濡れたようにしなやかな黒髪の、戦姫。


長峰清奈だ。

容姿淡麗、凛として
それでいて、勇猛。
儚くも舞う彼女の剣技は、水辺に咲く一輪の花のように美しい。
最強の強さでありながら、最高の美貌を手に入れた、僕と同い年の女の子。

その清奈と手を繋ぎ、今こうして走っているのは、世間の男子は何とも言い難い気分を味わっているに違いない、うん。

「今朝のニュースは見たわね?」

「今朝のって、何のニュースだよ。足で立つレッサーパンダが逆立ちを始めたってニュースか?」

「馬鹿」

「今日から新しいイチゴジュースが発売されるってあれか?」

「だから、違っ……て、なにそれ?」

走りながら、いかにも興味ありそうな顔を浮かべて清奈が振り向く。

「あとでそれ詳しく聞かせて。そうじゃなくて、私が言ってるのは有山のあの一件よ」

「古代文明がどうとかいうやつ?」

「そう、それ」

ハレンが先に待っていたようだ。清奈と僕が止まり、僕達タイムトラベラーが集まった。

ハレンは、今の124年後からやってきたタイムトラベラー。
年の割りには背が小さくて、愛用の赤ぶちメガネをかけている。
そしてまあ……
バストが……
おっぱ……げふんげふん。まあ分かるだろう。
要するに大きいのだ。

「相沢くん、こんにちは〜」

「おう、ハレン」

ハレンの晴れやかスマイルで僕も思わずつられて笑う。

清奈とハレン、この二人が僕の仲間だ。
そして僕たちタイムトラベラーの使命は、過去や未来を改変して世界をおかしくさせる「ネブラ」を倒すこと。
こうして清奈が旧美術教室に連れてくるのは、ネブラのことを話すときだ。

しかし、有山でいったい何があったのだろうか?

《ネブラが確認されたのですか?》

おっと、もう少し紹介が必要だった。
僕の内ポケットから、黄土色の小さなペンダントを取り出す。
今の声は、このなかにいる【パルス】のものだ。このペンダントはタイムトーキーと呼ばれ、タイムトラベラーなら必ず一つ持っている。

《ふむ、ネブラによる歪みというよりはだな……》

荘厳な男の声。
彼は【フェルミ】 清奈のタイムトーキー。

《なんていうか……兵器が……》

男の子の声。普段は殆んど喋らないハレンのタイムトーキー【ステラ】のものだ。

「兵器?」
僕が聞いた。

「フェルミが言うには、例の海底の古代文明に、対ネブラの巨大兵器があるらしいの。そうよね? フェルミ」

《うむ。超古代海底都市、通称【アンダーランド】の可能性が高い》

「アンダーランド……地下王国ですか……初めて聞きました」

ハレンが言った。
そしてそれは僕もそう。

《アンダーランド……どこにあるかは私達タイムトーキーもはっきりと特定していません。ただ、大昔にアンダーランドは確かに存在し、海底のどこかに沈んだということは確かです》

「そのアンダーランドは伝説があってね。そこでは度々ネブラの襲撃があって、現在の力を遥かに越えるネブラ討伐用の兵器が作られたようなの」

「え……じゃ、じゃあ……その兵器を手に入れたら、ネブラなんか怖いものなしじゃないか!」

「でも、海へ潜る方法がありませんよね……」

あ、
そうか。
ハレンの言葉にちょっとガクッとした僕。

《有山港の海底に、ちょうど岩と岩が閉じてしまっている場所がある。その先にあると考えられるな》

「でも、なんでわざわざそんな兵器の話を?」

《うむ、それはだな。有山港の問題の海域付近に最近歪みが発生し、危険レベルではないが確実に成長している》

「だから、ネブラがその兵器を狙っている、ということか」

「でも、兵器は対ネブラ用ですよね? 殆んどのタイムトラベラーがあったことも知らないような兵器を、なんでわざわざ回収しようとするのでしょう?」

「ハレン、その兵器はタイムトーキーの魔力の集まりらしいの。それはすなわち私達タイムトラベラーに関する情報体……手にいれられると大きな支障が及ぶわ」

「それは……例えばどんなことが起こるんですか?」

「私達タイムトラベラーの情報が漏れる。嘗てタイムトラベラーだった人も、これからなるはずの人も全て。そうなると私達が根絶やしにされかねない」

《いい忘れていたが、兵器はタイムトラベラーに関する全ての情報がその兵器に内包している》

「情報が入った兵器? ずいぶんややこしいな」

《左様。故に兵器はどのような形なのかは明らかにされていない》


「ま、どちらにしろ調べる価値は十分にあるわ、ハレン、ここからサーチングはできる?」

ハレンがポケットから取り出したサイコロ状の物体。そこに一つだけあるボタンを押すと、たちまち展開、一台のパソコンになった。サーチングは、歪みがいつの時間で発生したかを調べる作業のこと。ネブラがいる時間を調べるのだ。

「可能です。今から特定してみます」

数秒の沈黙の後

「確認できました」

ハレンがパソコンの画面を僕と清奈に見えるようにする。

「2214年7月26日です」


2214年!?
これは、かなり未来の世界だな……。
23世紀ってことか。青色猫型ロボットよりも100年近く先の未来なわけだ。

「今日の放課後、早速調査を始めるわ。授業が終わり次第またここに集まって」





そして今、僕たち3人は電車で有山に向かい、港の船着き場にいる。
しかし、マスコミやら野次馬やら世界じゅうで著名らしい考古学者やらで人が溢れかえっている。

どうやら再び浸水を始めるようだ。目の前には、恐らく外国で作られた立派な潜水艦がある。

「ここじゃあ人が多すぎるな……」

「不可視空間を展開するわ。それなら気づかれずにすむ」

さっきから僕は説明役を任されているようだが、もう少し付き合ってくれ。
不可視空間ていうのは、中にタイムトラベラーとネブラしか入れない空間だ。それ以外の人はそこに空間があるということを認知できない。
清奈が呪文を唱え、有山港を覆い被せるように空間が広がった。

空間が広がり、不可視空間の中に入る。
中に入った途端周りにいた沢山の人の姿が消えた。
正しくは、僕たちは目に見えない部屋に入ったので、部屋の外にいる人達が見えなくなったと言ったほうが正しい。


「現在の規模は半径20メートル。アンダーランドがあると思われる地点から南西に500メートル離れています」

《なるほど……揺らぎとしてはまだ小さいですが、場所が悪いですね》

パルスが言った途端

沢山の拍手喝采や、エールを送る声。

「潜水艇が向かうらしいわね」

《まずいな。揺らぎに巻き込まれる危険性がある》

フぇルミが懸念するのは当然だ。
今あそこに向かうのは……!

ピピピピピ……

電子音が流れた途端に、ハレンのパソコンに大きなウインドウが開く。

「揺らぎが急成長しています……!」

「助けにいかないと!」

僕は思わず立ち上がった。

「気持ちは分かるけど、私達の存在を知られてはならないし信じてくれない以上、あれは犠牲にならざるをえないわ」

「なに、言ってんだよ! 今からでも何とかなるかもしれ……」

「どうにもならないの」

清奈がセリフを遮った。

「私だって同じ気持ちよ。ハレンもそう。でも、多くの人を救うために少しの人を犠牲にしなくてはならないときもあるの。悠、お前も分かるでしょ?」

「……」

清奈の言っていることは、確かに正論だ。
そういうものだ、と僕を諭した。
見殺しにしないといけないという酷く心が痛む状態のまま、僕はその場に座った。

なら……

「清奈、ハレン」

二人が僕の方を向く。

「ネブラの元へ時を渡ろう。すぐにでも」

「……私は、相手がどういう動きをするかここで調べたいのだけど」

「……なら、僕一人でもいい」

正義の味方を気取るつもりはないが、人をみすみす死なせたくないという、なんとも素晴らしい心を持っていたようだな、僕は。

僕は、目先ばかり見て後先をあまり考えない。
清奈は、僕よりもすごく頭が良いしとても合理的な判断をするけど、それゆえ酷な決断をするときもある。

「私は行きます、相沢くん」

「……ハレン」

ハレンも僕の言葉に応じてくれた。

「分かったわ、お前の勝ちよ。今すぐ向かうわよ」

清奈も立った。

「フェルミ、ここから一番近いのは?」

《4番倉庫裏のコンテナの中だ》

「分かった」


そういうわけで僕たち3人は時を渡る玄関口【時の間】があるコンテナへと向かう。

その先で、出会うはずがなかった人達と出会うことになることになる、なんて微塵も思ってなかった。




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