side story


[02]太古の歴史A



「それで、次の作戦はいつなんだ?」

『話はしっかり聞けとあれほど言ったはずだ』

「おいおい。それじゃまるで俺が居眠りして聞いてなかったみたいじゃないか」

『事実をありのまま言っただけだ。愚か者が』

「ぐっ……!」


 アストラルの手厳しい指摘にゼクスは苦い顔をした。




 彼らは敵の将を討ち取ったので、野営地へといったん引き返している。



 この後夜間の哨戒活動が控えているので、次回の作戦行動の日程を聞いてから寝ようと決めていたのだが、部隊長の無駄話に付き合ってしまったために睡魔の誘いに乗ったのだ。


 そのおかげで先程から相棒の厳しい程度にうるさいお説教を聞かされているのだった。




 ゼクスが長い話に飽きてきた頃、野営の天幕群からこちらに向かって歩いて来る人物がいた。


「あら? また些細な事で怒られているのかしら?」

「セフィリア、ちょうど良いところに来てくれた」

『今は二代目のヴェリシルと取り込み中だ。少し控えているがよい、初代ハラウオンよ』


 ゼクスが安堵の息を漏らすと、アストラルがさらに厳然たる口調で注意を促す。


『ヒヒッ! そんな説法ばっか聞かせちゃ相棒が馬鹿になっちまうぜ?』

『雷啼、我らが力を与える事で強くなるのはさる事ながら、契約者本人も精進せねば強くならぬ。これは鍛練の一環だ』


 バルザールの下らないようである程度真面目なこの冗談を、アストラルは恐ろしく厳々とした口調で彼らしい論で一蹴した。


『あんまし根をつめると逆効果だぜ? 俺達を見習えってんだ』

「そうだぞ、アストラル」

『貴様は頭に乗るな!』

「………はい」


 バルザールの意見に同調して一喝されるゼクス。



 茶化すような口振りでバルザールはアストラルに話しかけている。




 一方、彼の契約者であるセフィリアはそんな光景を苦笑して眺めながら、


「相変わらずみたいね」

「ああ。紅蓮も雷啼も仲がいいんだか悪いんだか………」

「違うわ。あなたの事よ。この間ひどく思い詰めてた顔してたから心配したのよ?」

「ん……ああ。まあ、色々とな」


 急に歯切れが悪くなったゼクスを見て、セフィリアは顔をしかめた。


「何よ。私には言えない秘密なのかしら?」

「いや、そういう訳じゃ……」


 ゼクスは慌てて言い繕うが、良い言葉が思い浮かばず結局口ごもるしかなくなってしまった。




 そんな彼を見てセフィリアは思わず溜め息をつく。



 降参を表す溜め息に思えた。


「ゼクス、あなたがどこかに行ってしまいそうな気がして怖いの。どうして私に何も相談してくれないの?」

「それは、つまりだな……」


 君に言いたい事なのに相談できるはずがない。と言う訳にもいかず、何もない茂みへ目を泳がせるゼクス。




 セフィリアはより一層目を細めて身を乗り出す。


「うわっ。何をするつもりだ!」


 驚きのあまり地面に座ったまま後退りをして樹の幹に背中をぶつけてしまうゼクス。



 それでもセフィリアは彼に詰め寄って、吐息がかかるほどにまで近くに来た。


「ねえ、そんなに私が嫌なの?」

「き、嫌いというわけじゃ………」

「じゃあ教えて。何の事で悩んでいたのか教えて」


 ここまで来たら言うしかないのか、とゼクスが腹をくくりかけた時、


『キヒヒヒ! まぁた痴話喧嘩か?』

「きゃっ!」

「わっ!」


 バルザールがいきなり声を出したので、セフィリアは驚いて飛び退き、ゼクスは口が開いたままになってしまった。


『セフィリア嬢、あのヘタレはお前さんと結婚するか否かで悩んでたんだぜ? それを本人に相談できる分けないだろう?』

『雷啼! 貴様がでしゃばる所ではない! 口を慎め!』

「え……?」


 セフィリアは何事かとゼクスの方を見た。





 彼は顔を真っ赤にして空を見上げている。


「きょ、今日は良い天気だな……………なあ、セフィ、リア?」


 視線をセフィリアに移すと、彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。




 やはり言うべきでなかったか、とゼクスが落ち込みかけたその時セフィリアが彼に抱き付いた。


「やっと、やっと決めてくれたのね………!」

「ああ。バルザールに言われたけどな」

「このバカっ! あなたが何も言わないから私が言おうと思ったんだから!」

「うっ……。すまない」

「バカァ……」


 泣きじゃくる彼女の華奢な体をゼクスはしっかりと抱き締めた。




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