side story


[15]時を渡るセレナーデH



「なるほど、そうだったか」

僕達は先程の出来事を報告するため、再び公務室にいた。

「大臣、彼らの狙いはキューブだったわけですが、いったいどういったものなんですか?」

清奈が真剣な顔で聞く。
大臣も同様で、場は深刻な状態だった。

「キューブは、古墳島に眠るある兵器を起動させる為の、いわば電源スイッチだ」
「じゃあ、その兵器が奴らの手に渡ってしまったのか……!」

それは由々しき事態だ。

「いや、キューブは3つ存在する。2つ目は古墳島にあることが分かっているが3つ目は分からん。だが、奴らより先にキューブを集めなくてはならない」

今一瞬だけ
如月君の目が清奈に向けられたのを感じとった。

「……如月大臣」

清奈はそれを気にすることなく言い続ける。

「今すぐにでも古墳島に向かいましょう。兵器が起動させられたら、この世界に何が起こるか分かりませんし」

確かにそれが一番良い。
遅かれ早かれ、ネブラ達は必ず古墳島に現れるはず。それを先回りして、ネブラから兵器を死守しなければ……。

「そうしたいのは山々だが、先程の襲撃で潜水艇が故障した」
「故障……!」
「じゃあ、すぐに出発出来ないんですか!?」

僕の言葉の後にハレンが口を開いた。

「そうなるな。あの辺りは危険海域に当たる。万全の体勢で向かわなければ海のもくずになるのがオチだ」
「復旧できるんですか?」

今度は僕の正面に向かい合って座っているネルが言った。

「勿論だ。だが、どんなに早く修理が終わったとしても出航は明日の夜だ」
「今日はもう行動できませんね……」

ハレンが言って、一旦その会話は止まった。
それを待っていたのだろうか。如月君がこんな話を切り出した。

「悠、清奈、ハレン」

僕達3人は同時に如月の方を向いた。

「ネルを助けるときに言っていた言葉なんだが、あの正体不明の連中は、ある存在を敵視している」

このセリフを聞いた途端、如月君は何を言おうとしているのかすぐに分かった。

「時渡り……タイムトラベラーというものたちだ」

ネルは、なんでそんなことを如月君がいつのまに知ったのか不思議な眼差しで見ている。
大臣はというと、まるで予感が的中したかのような微笑を浮かべていた。
僕達3人は何も言わない。パルス達も同様だ。

「3人とも、この世界……いや、世界は同じかもしれないが、お前達が来たのは今よりもずっと過去の時……そして、何らかの目的でこの今に渡った。そうなんだろう?」
「如月……その推論は飛躍しすぎじゃないかしら?」
「いいや」

次にハレンの方を見た如月君。

「あの吸血鬼は言っていた。来たタイムトラベラーは【1人】【だけ】と。つまり少なくともハレンはそうだ。そして、思いがけず俺は悠の携帯電話を見てしまった。時計が止まっていた理由も、これで分かった」
《やむをえません。そこまで私達の素性が明らかにされた以上、正体を明かすしかないでしょう》
《今後の関係の円滑にするためにも、我もパルスに賛同するが》
《ボクも……そう思う》

タイムトーキー達の意向を聞いた清奈は、僕達のことを洗いざらい話し始めた。





「つまり……」

一通り話し終えた清奈に続き如月君は言葉を返す。

「古墳島に眠る兵器がネブラに狙われている、ということだな?」
「そう、そしてそれが奪われてしまっては、この世界のタイムトラベラーが滅せられ、世界はたちまち混沌と化す……ということよ」
「そうだったのか……私も少し気になっていたのだが、私は勘が鈍いほうでね」
「ネブラっていう存在……世界を手にしようとしているのは、闇の勢力だけじゃなかったんだ」

大臣もネルも事情を理解してくれた。

「では、早急に潜水艇を復旧せねばな」
「大臣、あと……」
「分かっている。君達の情報はトップシークレットだ。潜水艇はなんとかして明日には準備しよう。それまで、ゆっくり休むといい」
「ありがとうございます」

正直こんな話信じて貰えるのか不安だったが、それは杞憂だった。今日はもうジタバタしても仕方がない。明日の戦いの為に体力を回復しとかないと。


というわけで、
今晩はこの科学省で寝泊まりすることになった。
これはもちろん、あの大臣や如月君やネルの好意なわけで、感謝しなければならない。
ならないわけだが……

「ちょっと狭いですよね……」

ネルがもっともな事を言う。さっき使っていた簡易休養室は、ネブラの襲撃で水びたしになったらしく、その殆んどが使用できる状態じゃなくなったらしい。唯一無傷だった部屋に入ったわけだが、明らかこの部屋は1人か2人用で、僕達5人が入るには余りにも窮屈すぎる。そして窮屈すぎるが故に……

「……」

清奈が、不満を言いたいけれどワガママをいっちゃ駄目だ、と自分に言い聞かせているような顔をしている。相当戸惑っている。

「し……仕方がないですよね……」

笑ってはいるものの、恥ずかしさを隠せないハレン。
「そ、そうだな」
「……やれやれ」


僕は如月君と一緒に風呂場へと向かっていた。風呂場は非常に大きいものの一つしかない。というわけで僕達が最初に入り、入浴してから今度は……げふんげふん。
中に入ると

「でか〜っ!」

温泉か風呂屋でも開けるぐらいの大きな更衣室だ。
如月君から借りた入浴用具と着替えを編み籠において早速入ることにする。扉を開けると、露天風呂だ。

「いや、実はといえばここは屋内だ。だが屋外にいるかのような体験ができる特殊な機械がついている」

へ〜
人間の暮らしはどこまで便利になるのかね〜。


やっぱり大きなお風呂は、足を伸ばせるというのがいいな。お爺くさいことを言っているな。後から入ってきた如月君と、僕がやってきた時代のことや、今まで清奈とハレンとどんな戦いをしてきたかとか、取り留めの無い話をしながら風呂に入っていた。

「じゃあ如月君、僕は先にあがるね」
「おう」

そのまま僕は更衣室に戻り、着替えて、風呂場を去った。


それで終わるはずだった。しかし、何の神様のおぼしめしだろう。僕は再び風呂場に戻らなければならない理由ができてしまった。
ここでまさかのドジッ娘属性発動か?修学旅行とかでベタなあれか?あるミスをやらかしてしまったのだ。まあ、何が言いたいか、というと。風呂場に下着を忘れてしまったのだ!
まずい!非常にまずい!
なんとしても女子達3人組が来る前に回収せねばなるまい!しかも下の方だぞ。見つかったらさっきのネルの卒倒どころじゃねえ!
ダッシュで風呂場に入る前に、中に誰もいないか確認する。声も無いし、気配も無い。よし!

脱衣所に再び入る。
どこだ?
確かにここで着替えたはずだぞ……?
僕が服を入れた編み籠の中には何もない。如月君の所も同様だ。如月君が気を利かせて持ち帰ってくれたのかな。
更衣室から出ようとした
そのとき――!!

「凄く大きなお風呂なんですよ」

げっ!
ネルの声だ。

「へ〜 毎日そんな風呂に入れるなんていいなあ」

そしてハレン
やばっ!!
と、とりあえず!
僕は部屋の中央にある机の下に潜りこんだ。
卓球台ほどの大きな机の中央。ここなら3人が立っているなら死角になる。

「ふぅ……」

清奈が伸びをして、机に座る。やばい!バレませんように!

「そういえば、こうして一緒に風呂に入るのは初めてよね、ハレン」
「そうですね〜。あはは、先輩と一緒に入るなんてなんだか新鮮な感じです」
「んっ……しょと」

何かが落ちた音。なるべく体を動かさず、首だけを動かして恐る恐る見ると……。
あれは
ネルの上着!
ちょっと待て!
おあああああ!!
着替えてる!当たり前だけど着替えてるー!
うあぁ!
だんだん奴らの着ている服が消えていってやがるぜ!そしてあれは
下着……
僕は顔を床に押しつけた。とてもじゃないが、これ以上は絶対に見れない! まともに見れない……!

「あれ!?」

ハレンの声
まずい、バレたか?!

「先輩ブラ付けてないんですか!?」


なにいい!!

「動きづらいじゃない、あんなの着けたら」
「え〜服と擦れて嫌じゃないですか?」
「いや、別に」

清奈
ノーブラなのか!?
普段から?
頭に血が昇る……!

「ね〜ハレンちゃん」
「はい?」
「ハレンちゃんのって……結構大きいですよね」

なんかベタな会話始めだしたあ〜っ!

「あはははは。よく言われます。でも、ネルさんだって凄く形がいいじゃないですか」
「ひゃっ! ハレンちゃんったら突つかないでくださいよ〜」

脳内が沸騰する〜!
いつのまにか3人に釘づけになっていた僕。3人の綺麗な生足。スベスベしてそうだなあ……。

「ん?」

3人がいる反対の方向を見ると
なっ!
鏡が3人の姿を写しているじゃないか!?
横を向いているが、はっきりと見えるハレンのたわわな胸。全身透き通るような白い肌が黒髪にに包まれる清奈。バスタオルに覆われた体からしっぽが出て、今にもおしりが見えそうなネル。これ何てユートピア?

「二人とも行くわよ」

やばっ!
ぎりぎりまでその景色を目に焼きつけて、僕は風呂場への出口と反対方向にほふく前進。

「は〜い、じゃあ行きましょうか、ネルさん!」
「おふろおふろ〜」

行ったか?
行ったな。
早くここから脱出しよう
と思ったところで。

「あった……!」

僕のパンツを発見。
どうやら一番下の籠に落っこちていたらしい。
そうと分かればすぐに回収してここから退散だ!
僕は机から飛び出し、籠をどかして奥に落ちているパンツを掴んだ。
退散……。
あれ、前が見えない。
何か僕の顔に落っこちてきたって、ぶ!
ブラジャーじゃないか!

「どわああっ!!」

思わず後ろに飛び、机におもいっきり後頭部をぶつけた僕。

「何の音?」
「物音がしませんでした?」
「まさか……!!」

やば……

非情にも風呂場の扉が開いた。湯気がたってよく見えないが、あれは清奈だ。
バスタオルを体に巻きつけて仁王立ちしている。
尋常ならない殺気と共に。

「悠」
「あ、あの〜」

向かってきた。

「言い訳があるんだけど、聞いてくれません?」
「関係ない」
「ですよね……」

顔面を派手に蹴りあげられ意識が途切れた。


目が覚めると皆の顔が目に飛び込む。

「気がついたか、相沢悠」

如月君の声。まだ蹴られた部分がジンジンする。

「もうお嫁に行けません……」
「ひどいです相沢くん……うぅ……」

顔を真っ赤にして言うお二方。そして清奈も顔を赤くしてずっとこっちをにらんでいる。

「……次やったら、命の1つや2つは覚悟しなさいよね……!」
「ゆ、許してくれるのか?」
「許すわけないでしょ! バカバカバカ、悠のバカ!」

いろんな意味で一生忘れられない夜になるな、そう思った僕であった。




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