第三章 迷い〜そして戦場へ〜


[07]第四三話



 如月と慶喜が科学省へ向かっている頃、ネルフェニビアは上穂自然公園にいた。



 大地を踏み締める度に落ち葉がサクサクと鳴り、とても楽しそうだが、ネルフェニビアはそうは思っていなかった。



 むしろ、この場にいること自体に苦しそうだった。


「ここに転移しなければ、耀君を傷つける事はなかったのに………」


 ネルフェニビアは、地面にぺたりと座り込んだ。




 そう。ここは彼女と如月の出会った場所。



 今思い返せば、その日からかなりの日数が経っている。


 そして、日を増すごとに、ネルフェニビアの如月に対する想いは募っている。


 だが、同時に、自分の戦いへ彼を引き込んでしまった事への罪悪感も強まっているのだ。


「耀君と、一緒にいたい………。でも、傷つけてしまうのは嫌………」


 汚れるのも構わずに、ネルフェニビアはギュッと両手で大地を掴んだ。



 嘘を言ってまで、如月は何を背負いこんでいるというのか。



 彼女自身は、決して逃れる事のできない呪いをこの身に焼き付けている。


 ならば、如月本人も自分と同じ事をしたのだろうか。




 確かに思い当たる節はある。




 最強と謳われる幻獣神アストラルとの契約。



 彼は自身を対価として捧げたと言っていた。



 そしてそれを後悔していないとも言った。


 では、何が如月を苦しめているのか。



 いつの間にか自分の大切な存在となった孤高の少年を、理解する事は別な意味での苦しみになっていった。


「分からない………。なんで教えてくれないの……! 苦しいよ、耀君……!!」


 ネルフェニビアは、嗚咽を漏らしながらその場にうずくまった。




◇◆◇◆◇◆◇◆




「キサラ、状況は?」


 科学省の地下に設けられた司令部に入るやいなや、慶喜は出迎えた副司令官に尋ねた。


「現在、敵主力部隊が最終防衛線に接触。激しい戦闘が展開されています」

「航空戦力はどうなっている?」

「タスクフォースによる迎撃で数は半減しました。ですが、こちらも約半数が撃墜されています」

「くっ…!」

 慶喜は司令官の席に座ると、如月に通信を開いた。




 その頃如月は、漆黒のコートを着て戦闘態勢に入っていた。


『いけるか?』

「問題ありません」


 如月はそう言うと、マグナムを手に取った。


『よし、発進を許可する。ハッチオープン!』


 慶喜が言うと同時に、如月を乗せた大型のヘリコプターは動き始めた。



 そして天井がゆっくりと開いていき、完全に開き切った時には既にヘリコプターは飛んで行っていた。


『潜水艦隊は四二〇秒前に出撃した。交戦海域に到着から三十分後に艦砲射撃を始めるらしい。急げよ』

「分かりました」


 如月が軽く目礼すると、通信が終了した。


『ヴェリシルの小娘はどうした』


 今度はアストラルが如月に話しかけて来た。



 如月は、「ああ」と応じると、


「大方、下らない事で悩んでいるんだろう。最近、夜な夜な泣いてるからな」

『放っておいて良いのか?』

「俺は親じゃない。あいつとは対等な一個人だ。ネルだって、それぐらいはわきまえているはずだ。いくら小動物みたいに可愛いとはいえ、必要以上に干渉する事は道理に反する」

『………ヴェリシル一族は長寿ゆえに、あの小娘程度でも子供だ』

「人間で言うと幾つなんだ?」

『貴様と同じ年に生まれたと仮定すれば、まだ十二か十三といったところだ』

「なるほど。だから少し幼い感じがして可愛いのか」

『………その発言、よもや年下に興味があるのか?』

「誰がロリコンだ。単に可愛いと言っただけだろう」


 アストラルの予想外の発言に、如月はあまり意識しないように返答した。



 ここで迂闊な言動を発すれば、色々と事後処理が面倒なのだ。


『ムキになるという事は……やはり、そういう趣味があるのだな?』

「ない。断じてない」


 如月がそう言った時、パイロットが告げる。


「空戦域より沖合数キロ地点に到着。まもなく潜水艦隊が合流します」

「了解。潜水艦による誘導火砲発射の後、戦闘空域へ突入、降下する」




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