第三章 迷い〜そして戦場へ〜


[19]第五五話



「円弧壊刃(えんこかいじん)!」

「はぁっ!」


 地面を伝って衝撃波が政宗を襲う。
 しかし自らも大地に拳を叩きつけ、同様に衝撃波を発することで相殺した。


「ぬっ……。意外とやりおるな、貴様」

「一応、加治政宗って名前があるんだがなあ、狂乱の大牙、兒壟クグツさんよぉ」

「よもや、我が二つ名を知っているとは……。古弖義流の流れを組むものか?」

「その通り。古弖義(こてぎ)流第二七代目が当主、加治政宗だ」

「クックック。我ら崕龍魏(ぎりょうぎ)の使い手と対をなす者に出会えるとは、御神ヤヌセクタルクのおかげか……」

「必然か、偶然か……んなことたぁどうでもいい。さっさと俺達一族の決着をつけようか」


 政宗は自然と腰を低くした。
 兒壟は剣の構え方さえ最初と同じだが、目の色が違っていた。








 一騎打ち。






 まさにそんな言葉がふさわしい状況のまま数秒が経った。



 不意に風が吹く。






 刹那、





「円弧壊刃!」

「ぬかせ!」


 両者が一気に駆け出し、互いの一撃を決めた。

 背を向けたまま、さらに時が過ぎる。


「やるな……」

「さすが、二七代目だ」


 政宗は自分のナックルを見た。
 それには修復が不可能なヒビが走っていた。
 兒壟の大剣も同様で、剣先が見事に欠けている。




 数十秒の後、二人はようやく向き合うと互いに歩み寄り、


「この勝負。俺の負けだ」

「二七代目。謙遜もいいが、少しは誇りを持て。この大剣を少しでも折った奴はお前が初めてだ」


 不敵な笑みを浮かべて拳と拳をぶつけ合った。
 その後、如月とクロエと合流した彼らは、アストラルの存在と今起きている危機について話し合った。


「つまり、この坊やが紅蓮の神の契約者ってことか」

「そういう事だ。如月の息子、何か付け加える事項はあるか?」

「ガキ扱いするな。バトルマニア」

「なっ! 総大将に向かって何という口の聞き方だ!」

「落ち着け、閃光の槍士さんよ」


 政宗は苦笑いをしながらクロエの肩にポンと手を置いた。
 兒壟は肩を震わせてくつくつと笑っている。


「まあいいじゃねえか。それで、俺達はどう動けばいいんだ?」

「如月の息子とクロエは本土に行ったほうがいい。俺と兒壟はここで事後処理を済ます」


 政宗は胸ポケットから取り出した煙草を口に咥えた。
 兒壟とクロエは物珍しそうに煙草を見ていたが、すぐに首を振って煩悩を取り払う。


「人間の嗜み……まあ、身体に毒があるから一部の奴しか吸わねぇな」


 政宗は火をつけて美味そうに吸っている。
 兒壟とクロエは、矛盾したその発言に顔を見合わせた。
 如月に至っては顔をしかめ、咳払いをすると、


「早く本土へ転送してくれ。時間が惜しい」

「…………分かったよ」


 政宗は、哀れな者を見るかのような目で如月を見た。
 情趣を解さない奴だと思ったのだろう。
 やれやれといった仕草をすると、同心円状の魔法陣を展開した。

 如月とクロエは、互いに頷き合うとその上に立つ。


「無茶して死ぬなよ。ネルは絶対に救って来い」

「分かっている」

「クロエ、また会おう」

「総大将も御武運を……」


 それぞれが言うべき事を済ますと、魔法陣が輝き急速に回転し始める。
 その輝きと回転で二人の姿が見えなくなると、上空へと光の球が長く尾を引きながら本土へ飛んで行った。


「俺達も行くか」

「そうだな」




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