第三章 迷い〜そして戦場へ〜


[17]第五三話



「じゃ、一丁やりますかね」


 政宗は拳をバキバキと鳴らし始めた。
 如月はちらりと周囲に目をやる。
 刹那、二人の背後から何かが飛んで来た。


「ふっ!」

「甘い!」


 すぐさまその場から動き、直撃を避けた。
 そして一瞬の動作で反撃をする。


「加治政宗! そっちはお前に任せた!」

「おうよ!」


 政宗の返事を聞くと、如月は素早く茂みへと身を隠す。





 敵は確実に近い。




 マグナムの弾倉に金色に輝く弾丸を一つ、込めた。


「それで勝てると?」


 上から声が聞こえ、如月は素早く銃口を向けた。
 だが、視界に入るのは青々とした葉ばかり。


「何が目的だ」

「あなた方から取り返すのです。我々の御神ヤヌセクタルクを」

「ヤヌセクタルク…………? それがお前たちの崇める神か?」

「そうです。我らが御神の社を汚されたからには、生きて返すつもりはありません。ここで贄となってもらいます」


 刹那、頭上から槍の嵐が降って来た。
 如月はすぐさま駆け出す。


「アストラル、御神って何だ?」

『恐らく、古より伝わりし一族……太古の戦で、英雄と崇められた神の一族だ』

「…………なるほど」





 やけに相棒の歯切れが悪い。






 何か嫌な記憶でもあるのだろうか。

 如月は不意に感じた疑問にかぶりを振った。





 今考えていては死を招くのみ。


「ここで死ぬわけにはいかないんだよ!」







◇◆◇◆◇◆◇◆







「それで、御神ヤヌセクタルクの聖遺物を俺達が荒らしたってか? 兒壟(じりょう)総大将さんよぉ?」

「要約すればそうなる。貴様らは禁忌に等しい行為をしたのだからな」


 兒壟と呼ばれた隻眼の大柄な男性は、かなり大きな大剣を肩に担いでいる。
 左目には刀傷があり、相当な手練であることを示していた。
 対する政宗は、全く動じていない。


「なら、早い話が俺達が退けばいいんじゃねぇか?」

「それでも禁忌に対する罪は贖えん。死こそが唯一の選択肢だ」

「じゃあやるしかねぇなぁ……!」


 突如鳴り響く金属のぶつかりあう音。







 先手は政宗だった。





 彼の手にある鉄のナックルが相手の大剣で受け止められていた。


「おおっと。少しおふざけが過ぎたらしい」

「どうやらうるさい蚊がいるようだな」


 政宗はおどけたような口調で不敵な笑みを浮かべ、兒壟は小さな石ころを見るような表情を浮かべていた。





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