第二章 動きだす運命
[22]第三六話
「ふん。所詮は出来損ないだったか」
「仕方ないでしょー。契約の仮想状態下あっただけじゃあ潜在能力は発揮されないんだからー」
中世ヨーロッパの男性貴族が着ていたような服を着た人物は掃き捨てるようにつぶやいた。
それに対してもう一人の人物は、口にくわえた棒付きの飴玉を舌で転がすように舐めながらのほほんとしていた。
彼がいるのは、上下左右が漆黒の闇に覆われた空間である。
目の前には、如月達が拘束した元凶者、つまり剛田武憲を連行している映像がリアルタイムで流れている。
「人間てのは馬鹿だねえ」
飴玉をくわえたボーイッシュな少女は目を細めた。
「ただ自分の感情に流されてるだけじゃ、そこら辺の動物と同類さー。その点は、あの如月の息子が優秀だけどねえ」
「……………」
貴族風の男は黙れと言わんばかりの視線を相手に向けた。
白髪の少女は、くわえていた飴玉の棒を摘むように持って口から取り出すと、惚けたような顔つきで、
「人間の感情遊び………どこまであの息子に通用するか面白そうだねえ」
「如月耀はすでにアリアがマークしている。貴様の出番ではないぞ、みぞれ」
「いいのいいの。実は我らが盟主の許可はすでに頂いてるのだー」
何を考えているのか分からない笑みを浮かべながら言うみぞれに対して、貴族風の男は睨むような視線を向けた。
「貴様が何を考えているかは知らんが、盟主への協力を申し出た者として期待に裏切らぬ成果を出せ。さもなくば貴様を切る」
「分かっているのだー。それにしても閣下殿の視線は私たち一族のような雰囲気があるのだー」
「だからどうした? 貴様のようなあばずれと同族などとは………吐き気がする」
「相変わらず酷い事を平気で口にする方なのだー。いつか殺されても文句は言えないのだぞー?」
「ふん。貴様ごときに命を奪われる私ではない。馬鹿馬鹿しい。さっさと消え失せろ」
「分かったのだよー」
何度も罵倒されているにもかかわらず、飄々とした口調で言い返すと、みぞれはひょこひょこと身体を上下させながら元来た道を歩き始めた。
魔族のようで魔族ではない者。
それがみぞれの一族の大きな特徴である。
同時にそれは差別の対象でもあった。
人間と魔族の混血種族は常に逆行にさらされる。
みぞれはそれを理解しているから、いくら罵倒されようとも決して怒りに我を忘れる事はしない。
そのおかけで、自分と似た境遇にいる人物も見つける事ができたのだから。
「ふふ……。如月耀、か」
彼の詳細な情報に触れる度に懐かしさにも似た感覚に捕らわれていた。
果たして、彼は自分を受け入れてくれるだろうか。
自分の任務も計算に加えて考えるみぞれだった。
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