第二章 動きだす運命


[17]第三二話



「“積み荷”は輸送完了。殲滅戦は予定通り終わりました」

「現在、作戦はスケジュール通りに進行中。段階はCです」

「交戦ポイント、範囲減少中です。全シグナル確認済みです。被害、ありません」


 オペレーター達の一通りの報告を聞くと、慶喜は思案顔になりならがら、


「津波の被害を確認だ」

「さすがにもう海水は引いていると思われますが」


 側に立っていた女性秘書の手に触れようとして、逆に叩かれながら尋ねた。


「まだ海水は引いていません。………いえ、増加しています!」

「水位上昇中! 津波、確認されません!」


 主モニターには現場の映像がリアルタイムに表示されているが、確かに津波の巨大な壁は見当たらない。


 そうなのに、どうして水位が上がっているのか。

 それに気付いた慶喜は、途端に苦虫を潰したような顔になる。


「くそっ! そういう事か。全戦闘ヘリへ通達。作戦を段階Uへ移行。確実に仕留めろ」

「ラ、ラジャー!」


 慶喜の言葉を聞いたオペレーター達の間に、突然の緊張が訪れた。


 秘書はどうにも分からないといった困惑の表情を浮かべて尋ねる。


「段階Iにする理由とは、一体なんですか、大臣?」

「それはな……」


 慶喜はいったん言葉を切り、鋭利な刃物のような目付きで秘書をちらりと見た。



 そしてコントロールディスプレイを空中に表示させると、さらに映像ディスプレイを表示した。


「原因はこれだ」


 慶喜が指差した場所は、ちょうど海岸近くの道路だった。


「これは………そんな、まさか……!」


 じっと目を凝らして見ていた秘書だったが、それに気付くとサッと顔が青くなった。


「海水が、逆流している……!?」

「そうだ」


 慶喜は厳しい顔をして頷いた。



 確かに海水の流れが街へと向いている。

 恐らく最初の津波はこれの迷彩のためだろう。


「恐らく“仮の”契約者の能力だろう」

「仮、とおっしゃいますと?」

「つまり一時的に意識を奪い、配下におく事で仮の契約状態をつくるわけだ。早い話が“使い魔”と同等の状態だな」

「はあ………」


 説明が理解できなかったのか、秘書は曖昧な返事をした。

 それを見て慶喜は人当たりの良さそうな笑みをして、


「今度、個人的にレクチャーしてあげよう」

「お断りします」


 秘書の手を握ろうとして、分厚い手帳で後頭部を殴られた。


「全く、少しは大臣らしく振る舞ってください」

「うむ。とりあえず今夜あたり夕食などいかがかな?」


 殴られた場所から血を流しながら慶喜は開き直った。


「結構です。それに今夜は閣僚による非公開会談があります」


 秘書は怒りを露にするわけでもなく、冷徹な口調で言った。


「それはつまらないな。では来週の日曜日にでも………」

 慶喜が懲りずにまた手を伸ばした時、甲高い警報音が鳴り響いた。


『目標が移動開始! 空間結界が展開されています!』

「光波、電波、電磁波、すべて遮断! 何もモニターできません!」


 オペレーター達の報告と同時に、主モニターや他の全ての映像ディスプレイが白黒のノイズだらけになっていった。

 さらに計器類の数値を示すディスプレイも画面が真っ黒になった。


「結界破砕班はどうした?」

「駄目です。現場到着まで三十分以上かかります!」


 オペレーターの悲痛な口調に慶喜は盛大に舌打ちをした。


「一番機から六番機までは警戒態勢に、他は人命救助だ!」

「ラジャー!」

「また結界破砕班は緊急出動。土木第二班は海水処理を急げ!」

「ラジャ!」


 オペレーター達の素早い動作を眺めながら慶喜はゆっくりと席を立ち上がった。


「セキラ。後は任せる」

「了解」


 セキラと呼ばれた秘書は立ち去る慶喜の背に敬礼をした。





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