chapter 1


[01]メザメ


目が……覚めた。

無機的な白い電灯と天井が見えた。どうやらここは病院らしい。どれくらいの間眠っていたのだろうか。

ベッドの脇に目をやると、お見舞いの花束が置いてある。体じゅうに医療器具が取りつけられている。左には点滴器具、右には心電図が動いている。

記憶がはっきりしない。確か……。
そうだ。思い出した。
私はひき逃げされたんだ……。

車に撥ねられるという激痛を、今でも鮮明に思い出せそう。

すると一人の看護師が部屋に入ってきた。

「三澤さん……! 目が覚めましたか!」

看護師さんがとても驚いた様子で言った。

「ちょっと待っていてくださいね!」

そのまま走り去る。


私の名前は思い出せた。
記憶喪失にはなっていないらしい。

私の名は三澤綾香。高校2年生だ。

よく暗い性格と言われるが友達もいるし気にしていない。少し悩みを言えば体が高2の割には小さいことだ。
横の小さな鏡を見ると頭に派手な包帯が巻かれている。

「綾ちゃん!」

聞き慣れた声。入ってきたのは私の友達。名前は菅原琴音。セミロングの茶色の髪をしていて、私と正反対の性格だ。

「心配したんだよ!あたしすんごく心配したんだから!」
「ごめんね琴音。もう大丈夫だから」
「良かったよもうほんとにー」

安心して力が抜けたのか、琴音はへなへなとベッドにもたれかかる。

しばらくすると医者も入ってきた。そのあと流れるように沢山の人が入ってきた。私のお母さんも知らせを聞き、すぐにかけつけてくれた。

「良かった〜」
私に泣きながら抱きついてくれたお母さん。

「お母さんてっきり襲われたのかと思ったんだから」

襲われた?
ああ……。
あの事件のこと……。

「今日はお母さんずっと側についているからね。何かあったら何でも言っていいからね」
「ありがとうお母さん」

私のお母さんはとても優しい。いつも私の味方になってくれる。私が尊敬できる人だし、私が大人になったらお母さんのような人になりたいと思う。それほど私にとって大切な人。私をここまで育ててくれたのもお母さんのおかげ。

「ちょっと洗面台でタオルを濡らしてくる」
「お母さん……。テレビ見てもいい?」
「テレビ?これがリモコンで、これがイヤホンよ。」
それを受け取った。

個室のいい部屋だったので、丁度テレビは目の前にある。まだベッドを抜けることは出来ないけど、手は動かせる。
私はイヤホンを耳につけ、テレビの電源を入れた。

昼の時間帯は特に見たい番組も無いから、適当にチャンネルを変える。
昼のニュース番組を見ることにした。


なんとなく、あのことが気にかかるからだ。
私の期待通り、すぐにそれは始まった。女子高生連続殺傷事件だ。

どうやらまた新たに殺されたらしい。しかも場所は私と同じ市だ。この事件の奇妙な点は、被害者に目だった外傷が無くて、犯人に繋がる手がかりも全く無いという点だ。未だ有力な情報は得られていない。

また別のニュースが流れる。

「最近物騒よね〜」

近くにいた琴音と話をすることにした。

「綾ちゃんは車に撥ねられたんだよね。」
「うん。」
「それならいいけど……。あたしも気を付けなきゃ……。あたしまだ死にたくないしさ」








「先生。301号室の三澤綾香さんなんですが。」
「レントゲンは撮ったか。」
「はい。こちらに。」
「退院できる日も近いだろうが……一つだけ気になるな……。」






違うニュースに変わる。

「げ。今度はこんなのかよ。」

猥せつ行為のニュースだ。

「ほんとにスケベ親父が殺人鬼の標的になればいいのにね〜。」

確かにそれはいいかもね。

全くさあ、こんなのが教師になるなっていうか。

罪の無い女子高生が死ぬなんて……。代わりにこいつが死んだら世間ももうちょっとましになるのに……。

そう、【念じた。】

この何気無いこれから、
私は私でなくなっていった……。


病院では私の話でもちきりになっている。
なぜかというと
回復するのが異常に早いらしい。もはや不自然と呼べるレベルらしい。その為医者や看護婦も私のことでもちきり。私はこの分だと、心肺停止状態から退院まで半月という異例の早さで退院できるらしい。実質は僅か3日で日常生活に支障は出なくなり、残りの11日間は様子見だけという意味不明な時間になってしまった。まあ琴音は毎日来てくれるし勉強もしなくていいから良いけどね。

今日もテレビのニュースをつける。

あれ?

《今日未明、女子生徒への猥褻の疑いで逮捕されていた田中栄治容疑者が……》
前のスケベ親父がまたテレビに移ってるよ。

《取り調べ中、突然心臓発作を起こし間もなく死亡しました》

え?
あ……死んじゃえって冗談だったのに、死んじゃった?

《田中容疑者は過去に心臓病にかかった事はなく警察は原因を調べています》

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