歪みの国のアリス《長編》


[07]Black Sun《黒い太陽》F




こんなの、ただの八つ当たりだ・・・







やっと熱が冷めてきた私は、
息を整え、

猫と向き合った。










「・・・」








私が、すみません、と
謝ろうとしたとき、

不意に猫が口を開いた。










「・・・僕は・・」


























「・・・?」










「僕は、
アリスを越えていない・・・。
その意味わかるだろう・・・?」
















「・・・はい」













「こんなに傍に・・・、
一度なんかは
僕の肩にさえ乗ったんだ。

・・・手放したく、ないさ・・・」














なんとなくだが、一瞬、
猫の口が歪んだような気がした。




















「君は・・・・
あの匂いに、
耐えられるかい?」
















「・・・」







「僕は耐えなくてはいけない。

導く者だから。
それが僕の在る意味だから・・・」













一瞬黙ったかと思ったら、


次の瞬間、
猫はにんまりと笑う。












「色んな我慢をしてるんだ・・・。
少しくらい
オイシイ思いをしたって、
いいだろう?」













その言葉に妙に腹が立って、


私は猫から
視線を外した。






「・・・アリスが目を醒ましますよ」



今日は随分とお喋りなんだな・・・




本気で思った。












私が呟くと、


チェシャ猫は一瞬黙り込み、

そのまま滑らかに踵を返した。











「ビル・・・
僕たちは、


アリスのために


生きるんだ。

・・・例えこの身を
引き裂かれようともね」














そんな言葉を残して、
猫は去って行った。




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