歪みの国のアリス《長編》


[02]Black Sun《黒い太陽》A


目を開けると、
黒く煤<スス>けた壁が見えた。




「ふぅ・・・」




ひどく気分が悪い。



このところ

ほとんど何も
食べていないせいだろうか。









いや・・・









と、私は頭<カブリ>を降った。




最近見るようになった
夢のせいかもしれない。




光の中に
大切な人が去っていく夢。




「ここも、暗い・・・」




私は廃ビルの一室にいた。




明かりは、
あるといえばあるのだが。

ちらっと横を見ると
燭台の火がゆらめいた。




こんな蝋燭の火では、

明かりと呼べるか
どうかも怪しい。






暗いのは、

恐い。













「アリス・・・」












夢の少女の名を呟く。




私が、
この世で欲する唯一の、




女(ヒト)。




彼女が扉を開けてから、


その気持ちはどんどん高まって。




彼女の意思を
超えられないくせに、

こんな感情ばかり育つなんて。





そう考えると、
ますます自分が嫌になる。







番人の仕事を、しなくては。




彼女がもうすぐくるのだから。





そう、









気が付いたら








彼女の香りが
かなり近くにきていたのだ。





眉間を押さえ、首をふる。







番人、か・・・。






座っていた椅子から

重い腰をあげる。





奥へと続く戸を開け、
シチューとパンの
用意をしておく。




テーブルのある部屋に
戻ったとき、
小さな音が聞こえた。







革靴の、













音。













最後の覚悟をきめる。









猫はいない。



私がやらなくては。










《コンコン・・・》











き、た・・・。







「・・・はい」






カチャリとドアノブを回し、
私は戸をあけた。

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