機動戦艦雪風


[01]ニイタカヤマノボレ


1941年、最早収拾不能な状況にあった日本とアメリカの関係。日本側が提言した甲案、乙案二つの和解案は跳ね除けられ、突きつけられたに不平等和解案(俗に言う「ハルノート」)。
これに日本側は猛反発。国民意識の後押しもあり、ついに両国は開戦した。

同年、12月8日。
日本軍は宣戦布告と同時にハワイ、真珠湾を奇襲。米戦艦4隻撃沈、戦艦1、軽巡洋艦2隻、駆逐艦3隻を大破、戦艦3席を中破、軽巡洋艦1席を小破、航空機231機を撃破するという快進撃をみせた。
これは日本軍が新たに投入した新型機動兵器、人型自在可変翼兵器、通称「人雷」に拠るものが大きかった。人雷の最大の特徴は航空機型から人型へ変形する構造で、航空機のスピードと戦艦並みの火力、対人兵器並みの汎用性を備えている。
人雷はそれまでの航空機をはるかに凌ぐスピードと火力で米航空機を翻弄し、真珠湾を炎に染めた。

「ぃよーし、止まれー!」
一機の人雷、零式艦上兵器、通称「零戦」が空母「赤城」に着艦する。機体各所の識別灯が消えると、コクピットから男が降りてきた。
「どうだ、向坂修(おさむ)少尉。零戦の乗り心地は。」
向坂と呼ばれた男はヘルメットを脱ぐ。その姿はまだ幼さを残した少年だった。
「いい機体だね。機動力も火力も最高だよ。」
「しかし初戦で戦闘機7、軽巡2隻撃破なんてな。まさに人雷に乗るために生まれてきた男ってか。」
「一応江田島(海軍士官学校の通称)での成績は上位だったからね。河野晴一(はるいち)上等兵曹、整備、頼むよ。」
「任せとけ!」
晴一と呼ばれた男は胸をどん、と叩いて応える。
「あ、そうだ。南雲中将が探してたぞ。」
「南雲中将が?」

コンコン。
修は厳かなドアを叩く。
「入りたまえ。」
中から渋い、年季の入った野太い声が聞こえた。
「向坂少尉、入ります。」
重たいドアをあけ視線を上げると、見た目にも渋い男が、高級そうな机の上で腕を組み、修を迎えた。
「どうだね、零戦の乗り心地は。」
「はい、機動力、火力ともに申し分なく、最高の機体と思います。」
「そうか。貴様に辞令が来ている。目を通したまえ。」
そう言って南雲は一枚の紙を修に手渡す。紙を受け取った修は、視線を落とし辞令に目を遣る。
「第一三独立機動艦隊…戦艦雪風、でありますか。」
修は視線を南雲に戻す。南雲は頬杖をつきながら答える。
「佐世保で建造していた新型の戦艦でな。なんでも単艦で戦闘行動を行うために造られたらしい。乗組員もエリートで固めたいと、貴様にお鉢が回ってきたわけだ。」
「はぁ。」
「不満かね?」
「いえ。向坂修少尉、拝命、賜りました。」
修はビシッ、と敬礼する。

[次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.