暴走堕天使エンジェルキャリアー


[17]長門一の憂鬱 前編


「私は今、先日の地震の震源地直上に来ています。ご覧ください、見えますでしょうか?地面が陥没し地下鉄幹線が剥き出しに―」
一連のBEASTとの戦闘による街の損害は、全て「震災である」と、公式には発表されていた。だが、人の口に戸は立てられない。最早ほとんどの人間が、政府の発表など信じては居なかった。

「ラファエル、自己診断終了。MAモードで再起動。二尉、準備はよろしいですか?」
「待ちくたびれたわ。」
「すみません。では―」
特務隊では今日も、隊員達が慌ただしく動き回っている。
九十九とエンジェルキャリアー1号機の居ない格納庫。その光景は、長門以外には最早当たり前となっていた。
「今のうちにキャリアー各部を再チェック。得に背中を重点的に。」
「はっ。」
長門が隊員に指示を出す。以前、キャリアーに寄生(?)したBEASTの存在を危惧していたからだ。
仕事中の長門はやはりプロである。自分の腕にパイロットの命が懸かっている事を重々承知していた。
そして、そんな長門を慕い、他の隊員達もプライドと責任感を持って整備にあたっている。

だからこそ、長門は九十九の事件を心底悔やんでいた。

「准尉!ちょっと、聞いてんの?准尉!」
インカムから彩夏の声が聞こえてきた。その声に、長門ははっと我に返る。
「あ、すみません。何ですか?」
「左腕のレスポンスが悪いのよ。ちゃんとモニターしてた?」
「左腕ですね。ちょっと待ってください…」
そう言って長門は手元のノートパソコンのキーボードを叩く。
「クラッチの繋ぎを0.3秒早くしました。どうですか?」
「ちょっと待って…よっ!」
彩夏の掛け声に合わせ、モニターの中のラファエルの左腕が動く。
「うぅん…イマイチね。」
モニターの中ではラファエルが華麗な殺陣を魅せる。端から見れば、これでも充分だと思える程に華麗に。
「じゃあ今度は開きを0.1秒早くします。」
「了解。やぁっ!」


その様子をモニターを通して見ている者が居た。山本と小笠原だった。
「覚醒率20パーセントでこれだ。素晴らしい才能だな。」
「そう、思えます。」
「それで煤原一尉…ガブリエルは?」
「予定通り…です。」
小笠原は少し口ごもる。
「そうか。」
山本はそう言って、薄く笑った。


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