暴走堕天使エンジェルキャリアー


[15]重力の井戸 後編


地下鉄の幹線に崩落した瓦礫の上に、ラファエルが横たわっていた。運が良かったのか、足場が崩落したお陰でBEASTの攻撃から抜け出ていた。
だが、頭上には未だBEASTの姿があった。

「二尉、無事か?」
コクピットに小笠原からの通信が入る
「頭打ったわ…何なのよ、もう!」
「気を引き締めろ!来るぞ!」
ラファエルはゆっくりと起き上がり、構える。するとコクピットのモニターに赤文字で「advance warning」が浮かび上がる。
「下っ!」
ラファエルの足元から白い光の柱が立ち上る。ラファエルは飛び退きそれをかわす。
光の柱は瓦礫を巻き込みながら上空へ消えた。
そこにウェポンビルから放たれたミサイルがBEASTを直撃し、BEASTは爆煙に包まれる。

その隙にラファエルは地上に登り、BEASTとの距離を取る。
「二尉、ウェポンビルを壁に距離を取って戦え。」
「了解…っ!?」
再びモニターに「advance warning」の文字が浮かぶ。
「バカの一つ覚えね!」
ラファエルは軽やかに足元からの攻撃をかわす。が、左足の着地点が白く光っていた。そして、モニターに赤文字が浮かぶ。
「まさか…連射?」
彩夏の予想通り、光った地面から白い柱が立ち上る。
「二尉っ!」
小笠原が叫んだ頃には、ラファエルは宙に投げ出されていた。
「きゃあっ!」
赤く染まったラファエルのコクピットに警報が響く。そしてラファエルの上空から黒い球体―BEASTが現れ、その巨体を地面に叩きつけた。

コクピットの警報は更に騒がしく鳴り響く。その警報は、ラファエルの外装の限界を告げていた。
「ラファエルの背面装甲に亀裂!」
「援護っ!ミサイル掃射!」
放たれたミサイルがBEASTに当たる直前に、地面から白い光の柱が立ち上り、ミサイルを上空へと弾き飛ばす。
そしてミサイルはそのまま虚空で爆発した。
「全弾、外れました!」
「撃ち続けろ!」
白い光の柱により、ミサイルはことごとく防がれる。そうしている間にも、ラファエルはBEASTに圧しつぶされていく。

「バカにするんじゃ…ないわよっ!」
彩夏の叫び声に反応し、ラファエルの両目がギラリと光り、獣の咆哮のような声をあげる。
そして背中にBEASTを抱えたまま、重力を断ち切るように立ち上がる。
「いい加減にっ!」
ラファエルの足元から白い光の柱が立ち上り、ラファエルは巻き込まれ宙に舞う。だがラファエルはBEASTを離さない。
「これでっ!」
ラファエルの左手が眩しく輝き、その目は真っすぐにBEASTを見据えていた。
「墜ちろぉっ!」
BEASTが形を変える前に、ラファエルの左手がその球体の真ん中を貫く。
BEASTの表面に亀裂が走り、その隙間から白い光が漏れる。
次の瞬間、光は渦を巻きながら、虚空へと消えていった。


「ご苦労様です、二尉。どうぞ。」
長門が彩夏に話し掛け、飲み物を手渡す。彩夏は無言でそれを受け取る。
「ハデにやっちゃったわね…整備、頼んだわよ。」
そう言うと、彩夏はくるりと踵を返し、すたすたと去って行った。
「…」
長門は目をぱちくりさせ、小さくつぶやく。
「なんか…刺々しい人だな…」


―司令室に山本と小笠原の姿があった。
「今戦闘の報告書です。」
小笠原は束ねた書類を手渡す。
「エンジェルキャリアー…らしくなってきたじゃないか。」
山本はそう言って小さく笑った。


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