ガイア


[03]漂着


「隕石、通過しました!」
「艦内損害チェック!」
「はいっ!」
慌ただしかったブリッジにしばしの静寂が訪れる。
「―艦内、損害ありません!」
「…そうか。」
張りつめた空気が解れ、ブリッジクルーに安堵の表情が浮かぶ。どうやら最悪の事態は免れたようだ。
ビアッジ艦長の表情も緩んだが、すぐに「艦長らしい」表情に戻る。
「エンジン推力下げ、面舵40。プラズマシールド最大展開のまま、デブリベルトを離脱する。」
「了解。…!?」
グレゴリオ操舵士の表情が険しくなる。
「3、4番エンジン、推力下がりません!」
「なんだと!?」
「3、4番融合炉、熱量上昇!理論限界値を越えます!このままだと融合炉が保ちません!!」
「3、4番エンジン、反水素注入後パージ!プラズマシールドのゲインをすべて鑑後方へ回せ!!」
「了解!エンジンパージします!」
「総員、衝撃に備えよ!」


―「っつ…」
最初に意識を戻したのはグレゴリオ操舵士だった。頭を打ったらしく、右手で頭を押さえながらブリッジを見渡す。
そしてセンサー類の点滅から甚大な被害を免れたことに安堵した。同時に、前面に展開されたモニターに映された景色に絶句した。


―「グレイス…大丈夫?グレイス。」
「…ん…セシア…」
意識を取り戻したグレイスはセシアの顔を覗いた後、ゆっくりと起き上がり周りを見回した。
「よかった…痛いとこ、ない?」
「ん…平気。大丈夫。それよりこの騒ぎは?」
シェルターの中には喧騒が響いていた。
「なんか、扉が開かないんだって。」
「ふぅん…痛て…」
扉の前で何人かの人が怪訝な表情で言い合っている。その中の一人がポケットから通信端末を取り出すと、周りの人間も一斉に端末を取り出した。そして、人々は更に表情を強張らせた。
「圏外?」
「どういうこと?」
「船内で通じないなんて…」
シェルターに喧騒が広がる。辺りを見回し、一通り状況を把握したグレイスは立ち上がり、扉の前で一際険しい顔で騒いでいた人達の中に入った。
「ちょっちすみません。…そこ、どいてもらえますか?」
「何を…するんだ?」
「非常用有線通信回路からターミナルに接続します。酸素が供給されてるってことはターミナルはまだ生きてるはずですから。」
「非常用有線なら試したよ。…だが…」
「電源回路のマイナス側に細工してターミナルに…直接進入してホストを有線に切り替えれば…ほら。」
「おぉ!通じた!」
いつの間にか集まっていたギャラリーから感嘆の声があがる。
「いわゆる裏技ですけどね。これに端末を有線で繋げば…ん?」
「どうしたね?」
「エスポワールのコアユニット以外の機関が全て停止してる…」
ギャラリーに再び喧騒が広がる。
「でも、酸素はちゃんと供給されているし、明かりも点いている。重力も効いているから、シェルターがパージされたとも思えん。何かの間違いじゃ…」
「だから…おかしいんです。」
「?」
険しい表情で端末を操作するグレイス。その周りで、不安そうな表情を浮かべグレイスを見守るギャラリー達。セシアもその輪の外から背伸びしてグレイスを見守っていた。


―「これは…モニターの故障…じゃないよな…」
グレゴリオ操舵士は目の前のモニターに映された「木々」の様子に驚いていた。ビアッジ艦長を含め、他のブリッジクルーはまだ気を失ったままだ。グレゴリオ操舵士は状況を整理しようと必死だった。
「これって森…だよな…それにこの重力…」

「シェルターの生命維持装置が稼動してるのはわかる。…でも…」
グレイスの独り言のような小声に、一人の男が気付き、グレイスに声をかけた。
「…でも…何だい?」
「えっ?」
口に出したつもりはなかったのか不意をつかれたのか、声をかけられたグレイスは一瞬の驚きを見せた。
「あ…いえ。―コアユニットしか稼動してないはずなのに…「重力」が発生してるんです。」
「…どこがおかしいんだい?」
「円心式重力発生装置と無線通信のユニットは「サブユニット」に管理されてるんです。通信端末が繋がらないような状況でサブユニットが稼動しているなんて事はありえないんです。」
「―どういうことだい?」
「つまり…」

「艦長!ご無事ですか!?」
グレゴリオ操舵士の声が響く。
「起き抜けに大声を出さんでくれ…頭に響く…それより…」
ビアッジ艦長が目覚めた時には、すでに他のブリッジクルーは皆、自身の持ち場で情報収集に尽力していた。そしてグレゴリオ操舵士がビアッジ艦長に状況を報告した。
「「天然の重力」だと?」
「そうとしか考えられません。本鑑のサブユニットは完全に機関を停止しています。もちろん、グラビティユニットも。そして…」
「「森」…か。」
果てしなく広がる漆黒の宇宙を旅していたエスポワールにとって、それは絶対に「ありえない」光景だった。


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