第41章


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「この辺ならいいだろ」
 ほどなく身を潜めて休むに丁度良さそうな大きな木々に囲まれた空間を見つけ、マニューラとロズレイドはその木陰に落ち着く。早々にマニューラは頭の後ろで手を組んで、木の幹を背もたれ代わりに寄りかかって座り、ロズレイドは少し離れた位置の太い根へと腰掛ける。
しん、と静まり返った森の空気の中、マニューラはどこかぼんやりと虚空を見つめて黙り込み、ロズレイドもいざ二匹となったらどうにも話す言葉を見つけられず、内心でどぎまぎとしながら口を開けずにいた。
 気まずい沈黙に耐え切れなくなり、とにかく何でもいいから声を掛けようと意を決してロズレイドはマニューラを見やる。
そこでふと、その黒い左の上腕辺りに、見覚えのないくすんだ色の襤褸切れが巻き付けられているのが目に留まる。
元々が何色で何の切れ端であったのか定かではないが、ぼろぼろにほつれている端側の糸先まで汚れきっていて、破れて本来の役割を失ってからもう何年も経っているのが容易に想像できる、随分と古めかしい布だ。
追いつくことに必死で今まで気付かなかったが、いつから、何故あんな汚れた布切れを巻き付けているのだろう。
ロズレイドは頭を捻る。
 ――そういえば、左腕は以前イノムーから僕を庇ってくれた時に大怪我をしたんだ……!
 もしかしたら、その古傷が急に痛みだして、堪らずにその辺で拾った襤褸切れを包帯代わりにしているのかもしれない。
そうだとしたら、大変だ。あんな不衛生な布を巻きつけていたら、余計に悪くなってしまうだろう。すぐに替えてあげなければ。
「マニューラさん、左腕の傷が痛むんですか? 見せてください、そんな襤褸切れより新しい包帯を――」
 ロズレイドはそっと近寄って、自分の道具袋から真新しい包帯を取り出し、マニューラの腕に巻き付いた襤褸切れへ手を伸ばす。
その瞬間、うとうとしていたマニューラは急にびくりとして目を開いた。


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