第41章


[12] 


 ・

「マニューラさん!待って下さい!マニューラさん!」
遥か彼方に遠ざかっていく赤い鬣を、ロズレイドは必死で追った。
「お願いです……戻ってきて下さい!話を聞いて下さい!……マニューラさーん!!」
ぜいぜいと息を切らしながらも、有りったけの大声で呼び掛ける。
だが、聞こえないのか、聞こえない振りをしているのか――マニューラは決して振り返らない。
いくらロゼリアだった頃よりマシとは言え、足の速さではとても敵うものではない。
二匹の距離は一向に縮まらず、逆に開いていくばかりである。
そしてとうとう、その後姿すら完全に見失ってしまう。
「マニューラさん……」
鬱蒼と茂る森の中で、ロズレイドはひとり途方に暮れた。
右も左も分からない見知らぬ土地。何処かに敵の目が光っているかもしれない危険。
しかし、それ以上に彼を打ち拉いだのは、マニューラが呼び掛けに応えてくれなかった事だ。
『僕なら大丈夫、僕になら応えてくれる……と思っていたのは、ただの思い上がりだったんだろうか……』
様々な不安と絶望に駆られ、いっそ、元来た道を戻ろうか……とも考えていた時――
「よいのか? このままでは、二度とあの者に逢えぬ事になってしまうやもしれぬぞ」
――突然、後方から、誰かが語り掛けてきた。
まるで心を見透かされているような言葉に、ロズレイドは恐る恐る振り返る。
「あ、あなたは……?!ディア――」
「ボーマンダだ」
何時の間にかロズレイドの背後に、何の気配も物音もなく――青い竜が佇んでいた。
「何故、あなたがここに……」
「質問は後だ。あの者を追う気があるならば、お前に我が背を貸そう」
驚愕するロズレイドに対し、ボーマンダは前足を折り、身を屈めた。
「で、でも……」
余りにも恐れ多い行為、と躊躇するロズレイドに、ボーマンダは更に促する。
「お前の足では、到底あの者に追いつけまい。暗くなれば余計に見つけ難くなるぞ」
「あっ……はい!では……失礼します」
理由も分からぬまま、ロズレイドは恐縮しながら、おずおずとボーマンダの背に跨った。
「ちゃんと掴まっておれ。振り落とされても知らぬぞ」
ボーマンダは赤い翼を羽ばたかせ、木々の間を縫うように宙へと舞い上がった。

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.