第39章


[29] 


 これはあくまで俺の推測でしかない。それに、ギラティナの話を素直に受け止めるならば、世界の行く末を純粋に心配して行動している可能性だってまだ完全には捨てきれん。
――薄れる意識の中で聞いた、あの声。世界を頑なに壊させまいとしていたあの声は、ギラティナによく似ていた。朦朧とする意識が勝手に作り出して聞かせた、単なる幻聴だと切り捨ててしまえばそれまでだ。
 だが、俺がテンガン山でアルセウスの企みを止める事となる以前から、ギラティナはアルセウスの下から離反して石版を盗み出し、世界の消滅を防いでいたのは事実。思い返せばその当時、何も知らなかった俺はアルセウスの手に操られるままにギラティナの意思を潰し、崩壊への道を助長してしまったのだった。今回もまた……?
 宝玉の下に向かう足が自然と早まる。ギラティナを信用できるはっきりとした確証は無いはずなのに。
罪悪感のようなものがそうさせてしまうのだろうか。
 祭壇までもう少し。後は数段の段差を駆け上れば、宝玉は目の前だ。段差に足をかけようとしたその刹那、
つま先に掠りそうな程の位置に、立ち塞がるように音もなく横へ真っ直ぐに切れ目が走った。
びくり、と喉が鳴り、瞬間的に足を引っ込める。まさかと神体の方へ振り返るが、依然として倒れたままだ。
「さて、異常を感じて駆けつけてみれば、可愛らしいイタズラ鼠が一匹。これは一体どういうことなのでしょう」
 ギラティナのものではない、だが聞いた覚えのある声がどこからともなく響く。


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.