第39章


[22] 


耳を疑いながらパルキアを窺う俺の顔は、ぽかんと間の抜けた表情になっていたことだろう。
彫刻のように滑らかな長い首の喉元が、極々僅かにくつくつと揺れた。
「如何に気取っていようとも、所詮は小さなネズミよの」
 他の全てを見下したような語り口で紡ぎ出される声は、確かにギラティナのものに間違いなかった。
「一体何をした?」
 すん、と鼻を鳴らし、引けていた腰をそっと戻して、俺は尋ねる。
「力の中枢を貫いたことで生じた意識の間隙へ影を通じて潜り込み、一時的に体を支配している」
「そんな真似ができるなら、何故もっと早くやらなかった」
 最初から使っていれば、無様に逃げ回らせられる必要もなかっただろうに。苛立ち、苦々しく俺は言った。
「一度しか使えぬ奥の手だ。確実に潜り込むためには、媒介として出来るだけ大きな影が必要であった。
……分断された私の力では、あまり長くは持たん。一刻も早く神殿へ向かう。来い」
 ギラティナは早々に話を切り上げるようにして、手をこちらへ伸ばし、乗るように促す。
 だが、俺はすぐには従わなかった。その鋭利な爪の並ぶ手を信用するには、あまりに疑念が大きくなっていた。
「ここはパルキアの領域なのだろう。襲われるであろう事も含め、どうしてそれを黙っていた?」
「まずは乗れ。行き掛けに話そう。切り札を使ってしまった今、こやつが再び目覚めてしまえば終わりだ」

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