第38章


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 マニューラは自慢の名所を披露するように片腕を広げ、ロゼリアに言った。案内された巣穴の奥深くは、砕かれたような氷の塊達が乱雑に放置され、地から天井まですっかり殺風景にごつごつと凍てついたその様子は、とても絶景とは言い難い状態だ。氷という如何様にも美しくなりえる素材を持ちながら、その粗暴さが台無しにしているその有様は、どこか誰かさんに似ているとロゼリアは思った。

「あまりに素敵な場所すぎて言葉も出ねーかよ?ついでに寝泊りもここでしてもらうからな」
「は、はあ……って、えええっ!」
 ロゼリアは自分の耳が信じられず、思わず大声を上げた。上層の部屋でもロゼリアにとっては寒いくらいだったのに、こんな氷の穴でとても寝れるはずがない。
「クク、声を上げるほど嬉しいか。何せオレが昔使っていた部屋だからなー」
 懐かしげにマニューラは大きな氷塊の一つにそっと左手を触れる。
「オレもこの巣に来たばかりの頃はよく難癖つけられて絡まれたもんさ。その度に――」
 そう言いながらマニューラは空いた手で不意に拳を握り、氷塊に思い切り打ち付けた。岩のような氷塊は容易く割れ、破片がパラパラと辺りに飛び散る。
「こんな風にそいつをぶっ飛ばしてやったっけな。そしてまた別の奴に絡まれて、またぶっ飛ばして、繰り返してる内に気付いたらいつのまにかリーダーだ、ヒャハハ」
 手に纏う冷気を振るって払い、マニューラはロゼリアに笑い掛けた。

 ロゼリアは色々な意味で震え上がる。本人は極めて簡単に明るく言っているが、壮絶でバイオレンスな日々だったに違いないと想像できた。その中で、ふとロゼリアに疑問がわいた。
「あの、じゃあマニューラさんはここで生まれたわけではないんですか?」
 恐る恐るロゼリアは尋ねる。
「あー……まーな。色々あったのさ」
 余計なことを言ってしまったと、面倒臭そうに頬を掻きながらマニューラは答えた。

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