第38章


[21] 


 マンムーの体には鋭い氷の刃が何本も刺さり、ロゼリアが見る間にも次々とその本数が増していく。マニューラは手元に氷の礫を瞬時に作り出しては、音もなく目にも留まらぬ速さで投げ放ち、マンムーの毛並みが比較的薄い部分を的確に狙って突き立てていった。そのあまりの早業に、ロゼリアの目にはマニューラの右手元が一瞬煌めく度、礫がマンムーの体へと瞬間移動してきているように映った。

 ロゼリアの足が自然と止まる。そしてマニューラの曲芸めいた技と、力強くしなやかな一挙一動にただただ見惚れた。自分の助けなんて最初から必要ない、むしろ邪魔になるだけだと、無意識が悟っていた。

 激しく身に突き立ち続ける礫にマンムーは堪らず悲鳴を上げ、思わず体を捩るように動かす。瞬間、無防備に晒された脇腹に、狙い澄ましていたかのように黒い一閃が駆け抜けた。すれ違い様の速度の乗った鉤爪の豪快な横薙ぎは毛皮を易々と引き裂き、深々と抉る。もはや声を上げる間もなく、マンムーの巨体は崩れるように轟音と共に倒れた。

 倒れた音を確認し、マニューラは満足気に鉤爪を引っ込める。ニューラ達は一際沸き立ち、マニューラを讃える歓呼の声が飛び交った。『文句なしの合格点』をまざまざと見せ付けられ、ロゼリアは唖然としていた。
自分よりずっと大きい相手を一刀で斬り伏せる、おとぎ話の中だけだと思っていた存在が今、目の前にいた。
 ――すごい、僕なんかとは比べものにならない!
 心から感服し、ロゼリアもニューラ達と一緒になって歓声を上げようとしたその時――
ふらりとマニューラはその場に倒れこんだ。
「ま、マニューラさん!?」

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.