第38章


[01] 


─こちらはニューラのアジト。


 プラスチック板を割れんばかりに叩く音と、
「――ぉい! 起きな!」
それに負けんばかりのドスを利かせた声が、ロゼリアのおぼろげな意識を乱暴に揺さ振る。
「えっ、なに――うわ!」
 訳が分からないうちに、今度は天地が急に引っ繰り返って、ロゼリアは冷たい空気の下へと突然投げ出された。そして全身を包む浮遊感と、目の前に迫る地面。覚えのある状況に、今の自分が置かれている状態を理解した――時には既に遅く、体勢も心の準備もできぬままに頭からぼてりと落ちてしまった。
「いたた……」
 ロゼリアはぶつけた額を撫でていたわりながら体を起こす。
「よ、目ぇ覚めたか? ねぼすけちゃん」
 声の方を見上げると、にんまりと笑みを浮かべたマニューラが、片手の爪先でカプセル温室をバスケットボールのように器用にくるくる回しながらたたずんでいた。
 ホッ、とロゼリアは安心する。あの石を盗っていったニューラじゃなくて良かった。戦う決意をしたとはいえ、顔を合わせてもまだ真っ向と向かっていく勇気が持てない気がしてならなかった。思わず安堵してしまったのが何よりの証拠だ。自分の意気地のなさに、自然と自虐的な乾いた笑みが顔に滲んだ。

「何だ、気味わりーな。ちょっと強く落としすぎたか?」
 マニューラは怪訝な顔をしてロゼリアを覗き込む。は、と我に返った様子でロゼリアは立ち上がった。
「い、いえ。何でも。大丈夫です。ごめんなさい、僕、寝坊しちゃいましたか?」
 洞窟の中に外の光は届かず、時計など持っていようはずもないため、昼か夜かも分かりはしないが、こんな強引な起こされ方をしたのだから随分と寝過ごしてしまったのだろうとロゼリアは思った。
「話は後だ。ついてきな」
 それだけ告げると、マニューラはさっさと先に行ってしまった。ロゼリアは首を傾げつつ急いでその後に続いていく。

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