第37章


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巨大な口に並ぶ、岩石を木の実のように磨り潰す平たい牙の合間からは、
怒気に熱せられた蒸気が噴火寸前の火口のごとくもうもうと立ち上っていた。
漏れ出る蒸気が、不意にハガネールの喉の奥へゆっくりと大きく吸い込まれていく。
 何か仕掛けてくる。ルカリオは直感した。
「チャーレム殿、私が食い止めている隙にヤミラミ達をひとまず安全な場所へ」
「承知した」
 地に横たわるヤミラミ達にチャーレムは走りよっていく。
ハガネールは逃すまいとして、その背に目がけて凄まじい勢いの高熱の吐息を噴き出した。
ルカリオは間に割って入り、激流のごとき息吹を一身に受ける。
 厳しい鍛練と波導の力により鋼の硬度を誇るルカリオの肉体は、
吹き飛ばされることなくその強烈な流れを塞き止めてみせた。
ぐったりとしたヤミラミ達を掴み上げ、チャーレムは出口へと駆けていく。
 防がれたことでハガネールはより一層激昂し、息吹の勢いを強める。
ルカリオの体は、突き出した手先から徐々に焼け付いていった。
 ハガネールを恐れ、後ろに逃げ隠れていたはずのヤミラミが、
なぜ突然不意打ちなどという思い切った行動に出たのか。
腕が痺れるような感覚に蝕まれていく中で、ルカリオは考えを巡らせる。
恐慌にかられた上での行動だとしても目を狙った攻撃は的確で、
真相をハガネールに確かめることを阻むようなタイミングだったのは偶然にしてはあまりに出来すぎている。
 だが、当のヤミラミは倒れ、ハガネールは言葉が届かぬ程に怒りに支配されてしまっている今、
真意を確かめて穏便に事を解決する術はない。
 ――已む無し、か。
 麻痺が体まで到達しかけた寸前で息吹を振り払い、ルカリオは迎撃する覚悟を決める。


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