第36章


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 ヒカリの手から投げ放たれたモンスターボールは、テレビにぶつかる直前に宙で開き、閃光を放つ。
這い出そうとしていた幽霊は思わぬ反撃にひどく慌てた様子でテレビに引っ込んで逃れようとしたが、
ボールの光にさながら掃除機に吸われる布切れのごとく引き寄せられしまう。
やがて数秒も経たない内に画面から橙色の小さな影が飛び出て、ボールの中に光となって吸いこまれた。
と同時に幽霊の姿は霧が散るように消え去る。
 モンスターボールはポケモンにしか反応しない。やはり今回の一件はこのポケモンの仕業だったんだ、とヒカリは確信を得る。
 ヒカリ達はまだ気を緩めずに床に転がる閉じたボールを見張った。
中で必死に抵抗しているのかまだボールはゆらゆらと揺れ動いている。
揺れが一回目。完全にロックが掛かるまで、ポケモンが抜け出してくることは大いにありうる。
二回目。ロックされるまで後少しだが、まだまだ油断はできない。
そして三回目――。

 ・

 扉に鍵を掛けられてしまい中の様子を窺う事ができずにいたドンカラスだったが、
ようやくエンペルトが倉庫から鍵を取って戻ってくる。
「おお、ご苦労さん」
「マージを呼んで扉をすり抜けて内側から開けさせた方が早かったんじゃあないか?」
「もしもまだ人間がめげやがらなかった時の最後の追撃役として待機させているから、
持ち場を離れさせるわけにゃいきやせんよ」
 ドンカラスは鍵を受け取ると器用に觜で鍵穴へと差し込んで錠を開け、音を立てぬようそっと覗ける程度の隙間を作る。
そして見えた光景は、今まさにロトムがモンスターボールに吸い込まれた瞬間だった。



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