第36章


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 食堂を騒がせていた怪音は急にぴたりと止み、ヒカリとナタネはゆっくりと顔を上げた。
嵐が通り過ぎた後のように室内は静まり返っているが、
床に散らばっている割れた皿や倒れた燭台が先程の怪奇な現象が確かなものであったと物語っている。
 本当に幽霊なんだろうか。ヒカリの脳裏に不安がよぎる。
でも掃除したり、木の実を食べたりする幽霊なんて聞いたことがない。
 ふと、ヒカリは自分の横にポッタイシがいない事に気付く。ナタネのワタッコも姿が見えない。
二人はボールを確認するが、二匹が戻った形跡はなかった。
まさかさらわれてしまったのだろうか。心細さと心配にかられ、二人は自分のポケモンの名を呼ぶ。
するとすぐに返事代わりの鳴き声とともにぺたぺたと足音を立て、
ポッタイシとワタッコは少し慌てた様子で食堂へと駆け付けて来た。
 二人はホッと胸を撫で下ろす。
「もう、何をしてたの?」
 ヒカリの呼び掛けに、ポッタイシは申し訳なさそうに「くわ」と一鳴きした。 音に驚いて部屋の外に逃げていたのかな。そんなに臆病な子でも無いはずなんだけれど。ヒカリは不思議に思ったが、
何が有ったのか詳しく聞く手段も無いし、二匹とも無事に戻ってきたのだからあまり深くは気にしないことにした。
 かくして再び調査を開始しようとする二人を、ポッタイシとワタッコが呼び止める。
二匹は身振り手振りを使い、何かを訴えようとしていた。どうやら『自分達が先を行く』と言いたいようだった。
勝手にいなくなった事へのお詫びのつもりなのだろうか。何だかほほえましくなってヒカリとナタネはクス、と笑った。
「わかったわかった。先頭は任せるわ、お二人さん。今度はしっかりあたし達を守ってよー?」
 そう微笑みかけるナタネに二匹は力強く頷いた。二匹は並んで食堂を出で、二階へ続く階段の方へ歩いていく。
何の疑いも無くついてくる主人達にポッタイシとワタッコは心の中で密かに謝った。




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