第36章


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「さあて、どう料理してやりやしょうかねぇ」
 古ぼけた扇風機を足で乱暴に掴み、ドンカラスは勝ち誇ったように見下ろしながら言い放つ。
はたから見れば気が触れて物に当たっているようにしか見えないが、ドンカラスの頭は怒りに満ちてはいてもまだ正常だった。
 爪で絞めあげられ、扇風機のモーターが唸る。
スイッチが入っていないどころか、電源コードが繋がれてさえいないというのにだ。
見るとモーターには不思議な文様が描かれた白い札が張り付けられている。
それは『清めの札』と呼ばれる、ポケモン達――特にゴーストポケモン――が嫌う札だった。
「てめぇらがこれを嫌いなのはよぉく知ってるからなぁ。
一時期ゴースト共を住まわせてやっていた時に、この辛気臭え紙っぺらにびびってるのを見たんでぇ」
 扇風機を踏み付けたまま、ドンカラスはまだ数枚ある札をちらつかせて見せる。
「んで、あのデブゴーストはあっしらを追い出して、またここに住み着くことを狙ってやがるんだろうな。
おめぇはその尖兵ってわけだ? 本隊はいつ来やがる? 規模は?」
「そんなの知らねーやい! あのデブには置いてけぼり食らって頭きてんだ。もうあんなのとは何の関係もねーや!」
 悔しげに唸るだけだったモーターが、今度は確かに声と聞き取れる音を発してみせた。
扇風機はただの扇風機ではなく、ゴーストポケモンがとり憑いているのだ。
その名はロトム。電化製品に入り込み自在に操る特殊な能力で、洋館の電化製品を暴走させた犯人である。

 ドンカラスが食堂へと逃げ込んできた後、すぐにそれを追って来たロトムであったが、
ドンカラスとエンペルトの二羽がかりで捕らえられてしまった。
逃げだそうにも中々隙はなく、そして既に捕まっている様子の共犯者であるムウマージを見捨てる事も心情的にできず、
そうこうしている内に、どこからかドンカラスが持ってきた清めの札を張られてしまい、完全に逃げ道を断たれたのだ。


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