第36章


[11] 



 ナックラーから逃れた後もサクラビスは絡んだ蔓を振り払おうと暴れるように泳ぎ続ける。
砂地を乱暴に引きずられ、時に叩きつけられながらも俺は蔓を離さなかった。
 この好機を逃すわけにはいかない。何とか動きを捕らえられている内に仕留めなければ。
身を隠せる場所が見当たらない今、逃してしまえば鳥以上に縦横無尽に宙を泳ぐ敵から逃げ切るのは難しく、
真っ向から相手にせざるを得ない。そうなれば苦戦は必至だ。
もたもた戦っている間に他の魚達も集まってきて袋叩きにされかねない。

 だが、こんな引きずられている状況では中々電撃の狙いは定まらん。もう少し距離を寄せることができれば――。
その時、俺の思いに呼応するように蔓が縮まり、引きずられていた体が少しだけ浮いたことに気付く。
蔓の伸縮程度なら今の俺でも操れるようだ。そうと分かればやることは一つ。
 思い切り縮め、と心の中で命じた途端、俺の体は勢い良く浮き上がり、サクラビスへと引き寄せられていく。
しかし、あまりに念じが強すぎたのか勢いがつきすぎ、蔓はゴム紐のようにしなって俺はサクラビスより高く跳ね上がる。
 叫び声を上げてしまいそうになるのを堪え、放り出されてしまわぬよう躍起になっている内に、
遂にサクラビスの背に取り付くことができた。サクラビスは振り落とそうと金切り声を上げて暴れるが、
奴の胴に巻き付いている蔓にしっかりと俺は身を固定し、
うるさくがなり立てる細長い口を轡のように縛り付けてそれを手綱代わりに掴んだ。
 もはやどんなに暴れられようとも振り落とされる気はしない。後は煮るなり焼くなりだ。





[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.