第34章


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 見たこともないようなとても背の高い不気味な植物の森を抜けると、前方に渦巻く闇が見えた。
先を行くゲンガーがそれを指差し、あれが出口だと告げる。
 ようやくこの不条理な空間から出ることができる。普通では考えられないような出来事がここでは起きた。
先程までは確かにそこに存在していた岩や植物が俺達が近づくと跡形もなく消え去り、逆に何もなかったは
ずの場所に突然、音もなくそれらの物が現れて道を塞いだりもした。壁に飛び付けばたちまちそこが歩くべ
き地となり、今まで歩いていた足場が壁となった。ばらばらの向きで浮かぶ島々。逆向きに流れる滝。
もはや自分の居る場所が上なのか下なのかもわからない。いや、初めから上も下も無いのかもしれない。
時間の流れ、そして空間の在り方が俺達の世界の常識とは全く異なっている。まさに掟破りの世界。
 出口の目の前まで来ると、すぐに後に続くように言い残し、ゴースト達は一足先に飛び込んでいった。
取り込まれかけたことを思い出して少し足が竦んだが、ためらっている暇は無い。
意を決し、渦の中心を目がけて地を踏み切った。再び生暖かい闇が全身を包み込む。
死の安らぎに支配されぬよう、意識をしっかりと持つように努めた――。

 気が付くと、俺達は深い霧の立ちこめる石造りの部屋に立っていた。
じめじめとして黴臭く、そこは古い墓の中を思わせた。
「よくぞ戻った。命輝く者には難儀な道であったろう」
 部屋の中央に聳える台座の上から、重々しい荘厳な声が響く。見上げると、人間の背丈の数倍はありそう
な影が、赤く輝く二つの目で俺達を見下ろしていた。
「話をするには少々この状態ではしづらかろうな」
 その言葉で一瞬で霧が晴れていき、巨大な影が正体を現す。それは先程までの影と比べると随分と小さい、
白銀の毛並みをした狐のようなポケモンだった。
 狐はゆっくりと立ち上がり、おごそかに台座から降りてくる。一段一段を踏みしめるたびに、九つある尾
が揺らめいて妖艶に輝いた。
 目の前に座ると、狐は俺に目を向ける。その赤い瞳に向き合っただけで自分のすべてが見透かされた気分
になり、体中の血が凍り付いたかのように動かなくなった。
「さて、何から話すべきか。だが、その前に――」


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