第32章


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 ペルシアンから話を聞く以前にも、ハナダ北西の洞窟には狂暴な化け物が住むという噂を風の便りに聞いたことがある。
この洞窟に入った姿を最後に行方をくらませた者も数多く、人間はおろか一帯に住むポケモンでさえ、
まともな精神の者は洞窟付近にあまり近づこうとはしないのだという。
 いつ頃か人間の手により封鎖が施され、洞窟は開かずの魔窟と化した。
その内部に今、俺達はいる。
 洞窟内はひやりと寒く、奥からは水が流れるような音が響いてくる。
ハナダ川の支流でも通っているのだろうか。
 岩陰や頭上、前後にも常に気を配り、襲来に備えながら進む。ミュウツーのこともあるが、
人間の存在にも注意を払わなければならない。
 俺達と同じく、ミュウツーを追ってきたかのような時機での人間の出現。偶然とは思えない。
ミュウツーを知っている。そして、奴を造った実験の関係者の可能性がある。
 ミュウツーがこの洞窟を訪れたことも偶々ではないのではないか。深い関わりがある地だとすれば、
そこに付随してくるのは――あの屋敷で見たもの。この洞窟に住むという狂暴な化け物の話と嫌に繋がる。

「行け! エーフィ!」
 緩やかな曲がり角に差し掛かろうとした時、人間らしき声が道の先より響く。 咄嗟に全員を角の手前で止め、俺は壁を背で這うようにして覗き込んだ。
 道の先では人間が繰り出したと思われる薄桃色の猫に似たポケモンが、一匹のゴーリキーと対峙している。
だが肝心の人間の姿は岩の影になって見えない。



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