第32章


[01] 




 失意に暮れる空に、アブソルの嗚咽と鎮魂歌のような低くうねる風の音だけが響く。
 グレン島で起こった事、そしてピジョンとポッポの悲報を伝えるため、俺達はペルシアンのもとへ戻ることにした。
 眼下の島は炎獄と化し、近づくことすらかなわない。島中を赤熱の舌が這い回り、すべてを舐め取っていく。
それが海面にまで達すると、境界線を侵され怒り狂ったかのように海が爆発的な水蒸気を上げ激しく荒れ始めた。
 どうすることもできない自然の猛威。なされるがままに圧倒され、翻弄されるしかない。
無力感に苛まれる中、俺は立ち上る水蒸気の合間に、争う二匹の巨獣の姿を垣間見たような気がした。


 六番道路の外れに辿り着くと、すぐにペルシアンが現れ俺達を出迎えた。
 見回してもピジョンの姿がないことを聞いてくるペルシアンに、俺はピジョンの最期を話す。
 ペルシアンは言葉では平気な風を装っていたが、ふらふらと力なく木に寄り掛かり、今日はもう休み
詳しい話はまた明日に聞かせてほしいと言い残して、森の奥へと去っていった。
 俺達は主を亡くした木のうろを借り、やりきれなさに眠れない夜を過ごすこととなった。
朝になっても、もうあの短い嘴から発するよく通る声が起こしに来ることはないのだ。





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