第30章


[06] 



 単独で行動させるのは避けたいところだ。さらなる異常性を未だ内に秘めていそうなこの屋敷に、
隙を見せてはならない。暗闇に潜んだ何かが、いつ牙を剥いて喉元に喰らいかかってきてもおかしくはない、
そのような思いが拭いきれなかった。
「それならば俺が行ってこよう」
 そう最初に名乗りを上げたのはピジョンであった。
「これだけ穴だらけの壁や天井だ。シャッターの向こう側に抜ける道も他にあるかもしれない。
その場合、飛べる俺のほうが都合がいいだろう。穴を降りた先は八方塞がり――なんて可能性もあるしな。
それにペルシアンへの土産話ももっと増やさなきゃあならん。独自に少し調査もしたい」
 確かに適任ではある。反対する理由はない。
「ではムウマージを共に行かせよう。気紛れ故に役に立つかはわからんが、邪魔にはなるまい。
何が起こるかわからん。なるべく単独行動をさせたくはないのだ。こちらとしても直属ではない
借りられてきた立場の部下を、物言わぬ姿で返すのはあまりいい気分ではないのでな」
「ありがたい話だ。心遣いに感謝させてもらう」

「あの……」
 恐る恐るといった様子でアブソルが声を出す。
「ボクもついていっちゃダメかな? 色々な場所の話をピジョンさんからもっと聞きたいし……」
 そう言えばここに来る迄の間も、何やら話をしてもらっていたようだった。だが、時と場合というものがある。
「駄目だ。飛べぬお前ではピジョンの探索の足手まといとなろう」
「いや、俺は構わんぞ。二人がかりで運べばなんとかなる。それに俺の話をこんなにも真剣に
聞いてくれるなんて嬉しくてな。探索にも張り合いが出るというものだ」
「いっしょにいこー」
 じろりと視線が一斉にこちらへ集まる。
 ……俺は至極まともな理由で却下したつもりだ。しかし、このままではまた不当に
世紀の大悪党のような扱いを受けそうだ。
「……好きにするがいい」
「わぁい、ありがとう。じゃあ行ってくるね」



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