第30章


[02] 



 観音開きの玄関に施錠をしていたと思われる錆付いた鎖は、ばらばらにちぎられ、
人間の言葉が書かれた板――ロゼリアによると【立ち入り禁止】と書かれているらしい――と共に無残に
散らばっていた。ひしゃげたドアノブはその役目を果せなくなり、支えを無くした一対の扉は
ふらふらと交互に風に揺れている。
 軽く右の扉を押してみると、ぎぃ、と耳に障る金切り声のような音を立てて俺達の侵入を許した。

 黴や埃の混じった疎ましい臭いが鼻につく。
 内部は所々ひびが走り、崩れた壁や天井の破片と埃がそこら中に小山を成していた。
 歩むたびに細かい埃や塵が舞い、毛並みにこびり付いて癪にさわる。それにより吐き出される
ミミロップ達の文句もまた、募る苛立ちに拍車をかける。

 ああ、まったくもって不愉快だ。外観は同じようでもここに比べたら森の洋館は瓦礫に足を妨げられたり、
軽く扇いだだけで埃や埃の濃霧が飛び交わない分、最上の豪邸といえよう。
 そういえば、ドンカラスは洋館をわざと汚らしい外観のままにしていると言っていたような気がする。
人間が近づきがたい雰囲気を作り出すのに一役買っているのだと。
ドンカラス達が住み着く前はそれこそベトベターでもなければ住みたがらないであろう惨状で
あったらしいが、現在は自称綺麗好きであるドンカラスの命令で屋敷の美観――いかに恐ろしく、
不気味な見た目であるか――を損ねすぎない程度に掃除をさせているらしい。

 それが目的だとしても、この屋敷は少々やりすぎではないのか。汚れに無頓着な者もポケモンの中には
居るだろうが、少なくとも俺はそのような者とは相容れん。

 少し奥の方まで踏み込んでみたが、まだあの者の姿や気配は無い。それどころか誰一匹として見かけてはいない。
鼠の一匹や二――む。ポケモンの一匹や二匹くらいはそろそろ見かけてもいい頃だとは思うのだが。


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