第30章


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 だらだらと涎を滴らせ、狂犬達は包囲の輪をゆっくりと確実に狭めてくる。こちらが隙を見せればすぐ
にでもあの汚れた牙と爪とで飛び掛かってくることだろう。
 この場をどう切り抜けるべきか。数、そして耐久力の面においても分が悪い。
 策が浮かぶ前に、視界の右端で赤い閃光がちらついた。直後、吹き付けられた紅蓮の炎を電流の防御壁
で逸らし、凌ぐ。凄まじい熱気が壁越しにもじりじりと伝わった。
 襲い来る牙をいなし、電撃込めた拳で下顎を捉え殴り抜ける。感電しながら吹き飛ぶ一匹の横から間髪
入れず飛び掛かかってくるもう一匹を、ロゼリアが長く伸ばした毒針を細剣のごとく扱って突き、防いだ。
「一日にそう何回も針は撃ち出せないので咄嗟の節約です。……あまりいい感触ではありませんね」
 ロゼリアが針を引き抜くと同時にガーディは崩れるように地に伏し、動かなくなった。
 重い殴打音と共にまた一匹が宙を舞い、床を弾み転がる。
「三匹目ッ! あんた達なんかにやられるもんですか」
 自らの右足をぱんぱんと手で数回払った後、ミミロップはファイティングポーズをとり直した。

 三匹が一気にやられ、少し怯んだのか攻撃は一時的に止み、残った六匹は低く威嚇の唸りを上げながら
様子をうかがっている。
 包囲網に若干の隙間ができた。訪れたこの一時の好機、逃せば終わりだ。床の三匹はもうほとんどの再
生を終え、起き上がろうとしている。
 通路奥の方角に俺は強く電撃を撃ち込んだ。避けられはしたが衝撃で粉塵が上がり、緩んでいた包囲に
遂に穴が開く。
「駆け抜けるぞ。遅れるな!」



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