第30章


[15] 



「ひどい……」
「……もういい、やめろ。十二分に今日の夕飯が不味くなった」
 あの時、振り払ったおぞましい考えは、間違ってはいなかった。
 人間の手によるポケモンへの非道な実験――。少しずつ不本意ながら自分の中に芽生えようとしていた
人間への想いが、また躙り潰されようとしていた。
「自分の中で人間を憎みきれない所が有ったつもりですが……少々考えを改める機会をいただきました。
でも――」
「うむ――」
 ロゼリアは俺がいる方向に右花を向け、鋭い針を放った。
「とりあえず今一番に考えるべきは自分の身ですかね」
「ああ、その通りだな」
 避けるまでもなく射出された針は俺の横を過ぎ去り、背後から短い叫びが上がる。同時に俺も体を捻っ
て遠心力を加え、背後に尾を思い切り振るった。
 確かな尾の応え。ボールのように跳ねて体を打ち付けながら、小さな影が地を転がっていく。
「やだ、気付かなかった」
「この方の他に、あと何匹哀れな被験体がここにいるんでしょうね。ちゃんと後始末はしてほしいもので
すよ」
「いつ起き上がるかわからん。急ぎこの場を去るぞ」
 石像の仕掛けを手早く操作し、入り口付近で胴に針をうけて倒れている白いコラッタを残し俺達は部屋
を出た。




[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.