第27章


[01] 




 町を外れ、この藪の先――ここを抜ければすぐにトキワの森がある。
 焼けた森が頭をよぎる。変わり果てたあの姿が。ぶすぶすと何かが燃える音と焦げた臭いの記憶が――この草をあと一掻きでトキワの森は目の前だというのに、まるで鉄の扉のように立ちふさがる。
 所詮、トキワの森など、故郷など、最も長く過ごした場所というだけでしかない。それだけだ。何ら愛着など無いはず。
 ……だが、駄目だ。いくら自らに言い訳をしようと、やはりあのような惨状はもう見たくはない。今、トキワの森がどうなっているのか――まだあの無残に焼かれたままなのか――確かめるのは躊躇する。
 草をつかんだまま動かせないままでいる俺の手の横に、すっと背後からのばされた茶色の手が添えられる。
「なーにやってんのよ。しっかりしなさい。あ、もしかして怖いの?」
 怖い? 俺が怖がるだと? ……ふん、何を馬鹿な!
 添えられた手を撥ね除け、草を強く握りなおす。
「ふん、少し考え事をしていただけだ。俺が恐れるわけなかろう。さっさと行くぞ!」
「そうそう、それでいいの。私達がいるんだから大丈夫、大丈夫。どーんと構えてなさい」
 ぽん、と背中を叩かれ、ぴり、と弱い電気で返した。
 一気に草のカーテンをこじ開けた先は――。
 緑だ。まだ弱々しくはあるが、そこは緑でおおわれていた。
 昔に比べ随分と規模は小さくなってしまったが……青々とした若い木達が集い、活気のようなものが満ちている。


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