第25章


[08] 



 寒気が収まらない。こいつは何を言っている?
 どこからどう見ようと、この目の前にいる筋肉の化身は雄。どんなに態度を取り繕うと、天地が引っ繰り返ろうと、雄だという揺るぎない事実を奴の全身がひしひしと伝えていた。
 だらだらと顔中に冷や汗が流れる。雄が雄を好き好み収集――理解しがたき異常性。俺の思考回路は目の前の異形を否定するために全力で回っていた。最後の望みを託し口を開く。
「お、お前は雌なのか?」
 ふふん、と鼻を得意げに鳴らし、カイリキーはこちらにウィンクをする。毛虫のようにぞわぞわした気配が俺の体を這った。
「コ・コ・ロ・は・オ・ト・メ!」
 ――否定の望みは儚くも断たれた。間違いなく奴は通常ではない思想の持ち主である。俺に異質な恐怖を感じさせたのは“これ”であった。

 大好物を目の前にした獣のように舌なめずりをしながら、カイリキーはこちらになよなよと内股で迫ってくる。その醜悪な様子に軽く目眩がしたが、必死に堪えた。倒れてしまったら何をされるかわからない。想像したくもない。
 今までに戦ったどんな敵よりも別の意味で恐ろしい。だが、決して負けるわけにはいかないのだ。奴を倒せ、この身に近付けるなと全身がうったえ、頬に電気がみなぎる。
 そして放つは必殺の――! 電流がほとばしる手の平を奴に向けたところで、ふと我に返る。筋骨隆々とした腕の先の手中で揺られている緑色が目に入った。カイリキーの手も全身も、塩分濃度の高そうな暑苦しい汗に濡れている。
 ――これでは電撃は使えない。



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